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2アメナナヨトコミキノアヤ
天七代、床御酒の綾
【アメナナヨ】 神代の、クニトコタチからイサナギ・イサナミまでの7代のこと。
【トコミキ】   単なる酒ではなく、ト(トを以て世を治める)コ(子)、すなわち世継ぎ子を授かるための儀式としての酒。この綾の最後の方にそのことが書かれている。
02-001 コノトキニ ミコオシヒトノ
それは、皇子オシヒトが
トツギマエ タカギガミキノ
結婚する前のことであった。タカギが床御酒の
【タカギ】 七代目タカミムスビ。諱、フリマロ。
アヤコエバ カミノヲシヱハ
話を聞かせてほしいと願うと、アマテルカミは次のように教えられた。
【アヤコエバ】 「アヤ」は「綾」。まとまった文章。ここではそのような書き物に書かれていることを話してほしいということ。
02-004 イニシエノ アメツチウビノ
「遥か昔は天地が混じり合って
02-005 キハナキニ キザシワカルル
渾然一体となっていたが、やがて分かれる兆しが出てきた。
アウノメヲ ヲハアメトナリ
アメミヲヤ神からメとヲが生じ、ヲは天となり
【アウノメヲ】 ウ」は「アウワ」「ウル」に使われる特殊文字で、「アウ」は「アウワ」の略。天地創造の大本、アメミヲヤ神を表す。遠い歴史の彼方の人間の始まりをこの時代はこのように考え、それが科学だったのだろう。14綾のアマテルカミの話の中でも詳しく語られている。「メ」も陰を表す特殊文字。「メ」は重くて濁っているものやその状態。陰・大地・月・女などを意味することがある。「ヲ」は軽くて清いものやその状態。陽・天・太陽・男などを意味することがある。
02-007 ヒノワナル メハクニトナリ
日輪が生じた。メは大地となり
ツキトナル カミソノナカニ
月が生じた。その中にアメノミナカヌシが
【カミソノナカニ アレマシテ】 茫漠とした祖先の連なりの中で、アメノミナカヌシが現れ、そこから初めて祖先として記憶されたクニトコタチが現れた。そこにクニトコタチの国としてトコヨ国と呼ばれるまとまりができたと伝わってきたのであろう。トコヨは「常世」とも書かれるように、この時代のトの教えが行き渡った理想的な国の姿だったのである。
02-009 アレマシテ クニトコタチノ
現れて、クニトコタチに生まれ変わり、
02-010 トコヨクニ ヤモヤクダリノ
トコヨ国ができた。クニトコタチは八方に遣わす八人の
02-011 ミコウミテ ミナソノクニオ
御子を生んで、それぞれにその地を
02-012 ヲサメシム コレクニキミノ
治めさせた。これが国君の
02-013 ハジメナリ ヨツギノカミハ
始めである。この世継ぎの国君は
クニサツチ サキリノミチオ
クニサツチといい、アメミヲヤの道を
【サキリノミチ】 ミカサフミのタカマナルアヤに「ミヲヤカミ ミテクラソムル ハルアキノ イキハクダヨリ サギリナス」「アメユヅルヒハ アノサギリ」「クニユツルツキ ハノサギリ」などと出てくる。これらを総合して「サキリ」をアメミヲヤの教え、すなわち、昔から伝わってきた規範や自然の力をアメミヲヤの教えとしてとらえた。それは霧のようにすべを包み込こんでいるということと解釈し、訳では「アメミヲヤの道」とした。
ウケサレハ サツチニヲサム
民が守らなければ、サツチを以って治めた。
【サツチ】 槌。サツチやサギリの「サ」は清い、神聖なというような意味。
ヤミコカミ オノオノミコオ
八御子は各々御子を
【ヤミコカミ】 八人のクニサツチ。トホカミヱヒタメの8人。14綾に詳しく書かれている。
ヰタリウム ヤモノヨツギハ
五人生んだ。この八方の世継ぎは
【ヤモノヨツギハ トヨクンヌ】 二通りに読める。「ヤミコカミのそれぞれの世継ぎはトヨクンヌ」と読むと、トヨクンヌが八人いる。また、「ヤモ」をまとめた世継ぎと読むと、トヨクンヌはひとり。素直に読むと前者だが、このあとのウビチニ・スビチニにつなげて読むと、トヨクンヌはひとりとも考えられる。わたしは後の読み方を採る。
トヨクンヌ アメヨリミツノ
トヨクンヌといわれた。そのうちに三つの位の
【アメヨリミツノ ワサオワケ】 「天が三つの位を作った」と訳せるが、長い時間のうちに階級ができてきたと考えて「そのうちに」とした。
02-019 ワサオワケ キミトミタミノ
役目ができて、君・臣・民の
02-020 ミクタリノ カミハモフソノ
三階級となった。君にはたくさんの
02-021 ミコアリテ アメナルミチハ
御子がいたが、世の中の決まりには
メモアラス ミツヨヲサマル
妻を娶るという決まりがなく、三世までは一人の君が治めていた。
【ミツヨ】 クニトコタチの時代、クニサツチの時代、トヨクンヌの時代の三つの時代。それぞれは一代だけではなく何人も続き、この間に長い時が流れているとわたしは考える。
02-023 マサカキノ ウヱツギヰモニ
真榊を植え継ぎ、五百本めが
02-024 ミツルコロ ヨツギノヲカミ
終わりになるころ、世継ぎの男君の
ウビチニノ スビチオイルル
ウビチニ尊がスビチニ尊を妻として迎え入れた。
【ウビチニノ スビチオイルル】 初めての二人君。
02-026 サヒアイノ ソノモトオリハ
めでたい話のそもそもは次の通りだ。
コシクニノ ヒナルノタケノ
コシの国のヒナルの岳の
【コシノクニ】 今の北陸地方。越の国。越前、越中、越後辺り。
02-028 カンミヤニ キノミオモチテ
神宮に木の実を持って
02-029 アレマセバ ニワニウヱオク
御子がお生まれになったので、その木の実を庭に植えておいた。
02-030 ミトセノチ ヤヨヒノミカニ
三年後の三月三日に
02-031 ハナモミモ モモナルユエニ
花も実も、百もついたので
02-032 モモノハナ フタカミノナモ
モモの花と名付けた。この二尊の名は
02-033 モモヒナギ モモヒナミナリ
モモヒナギ尊・モモヒナミ尊である。
02-034 ヒナハマダ ヒトナルマエヨ
『ヒナ』というのは、大人になる前の呼び方である。
02-035 キミハソノ キノミニヨリテ
『君』という呼び方は、そのモモの木と実に因んで、
02-036 ヲカミハキ メカミハミトゾ
男尊を『キ』、女尊を『ミ』と
02-037 ナツキマス ヒトナルノチニ
名付けたことによる。成人した後の
ヤヨヒミカ ミキツクリソメ
三月三日に、スクナミカミが初めて酒を造って
【ミキツクリソメ】 主語がないので、造り初めたのは誰かが分かりにくい。場面の状況からすると、モモヒナミとも読める。また本文109に「ヰノクチノスクナミカミ」が初めて造ったとある。それではモモヒナミとスクナミカミは同一人物か。君の一人であるモモヒナミがスズメの様子から酒つくりを考案する環境にいるとは考えられないし、イノクチにいたとも、「ササナミ」という名を持つとも、「ササケ山」に祭られたとも、どこにも書かれていないのでモモヒナミとスクナミカミは同一人物ではないと考える。そこで、後に名前が出てくるスクナミカミが御酒を差し上げたと解釈した。
02-039 タテマツル モモトニクメル
二尊に差し上げた。桃の木の下で酌んだ
02-040 ミキニツキ ウツリススムル
酒に月が映り、二尊は代わる代わるすすめた。
02-041 メカミマヅ ノミテススムル
モモヒナミ尊がまず飲んで、モモヒナキ尊にすすめ、
02-042 ノチヲカミ ノミテマシワル
次にモモヒナキ尊が飲み、夫婦の契りを結んだ。
02-043 トコノミキ ミアツケレバヤ
それが『トコ御酒』である。体が火照ったのであろう、
02-044 アスミアサ サムカワアビル
三日目の朝に冷たい川の水を浴びたとき、
02-045 ソデヒチテ ウスノニココロ
二尊は大袖と小袖をしとどに濡らした。二尊の熱い心は