先頭の番号が青い行は、クリックすると解釈ノートが見られます。
対訳ページの使い方の詳細はこちらのページをご覧ください。
9ヤクモウチコトツクルアヤ
八雲討ち、琴作る綾
【ヤクモウチ】 本文105以降に書かれている。ソサノヲがイフキドヌシと共に大蛇を討った所が出雲のヒ川の上流なので「八雲立つ出雲」のヤクモと付け、「ウチ」は「討ち」と、弾くことを意味する「打ち」を掛けていると考える。
アラカネノ ツチニオチタル
粗野で荒々しく、下民(シタダミ)に落ち
【アラカネ】 掘り出したままの、精錬しない金属。ソサノヲの状態を形容しているので「粗野で荒々しい」とした。
09-002 サスラヲノ アメノオソレノ
サスラになったソサノヲは、世を憚る
09-003 ミノカサモ ヌガデヤスマン
蓑笠を脱ぐこともできず、ましてや休む
09-004 ヤトモナク チニサマヨイテ
宿もなく、あちこちをさ迷い
トカメヤル スリヤワコトニ
わが身を咎めてきた。足を引きずり、ひどく飢えながら
【スリヤワコトニ】 難解。ここでは「スリ」を擦りと読み、「足を引きずり」とし、「ヤワ」を「飢(ヤワ)し(ひもじい)」の「ヤワ」と解すと、ソサノヲが疲れて飢えている様子と読み取れる。
09-006 タトリキテ ツイニネノクニ
各地をたどって来て、ついにネの国を経て
サホコナル ユケノソシモリ
サホコの弓作りであるソシモリ一族の
【ソシモリ】 「明解古語辞典」(三省堂)によると、「ソシモリは古代朝鮮の地名。舞楽の曲の名。蓑笠を着て舞うもの。」とある。この時代に渡来し、弓作りをしていた半島の人が「ソシモリ」と呼ばれていたのではないか。「蓑笠」はこの場面そのものである。
ツルメソガ ヤドニツグムヤ
ツルメソの家に下民の身を置かせてもらう
【ツルメソ】 弦を作る人。
シムノムシ サタノアレヲサ
ソサノヲであった。ところで、サタの村長の
【シムノムシ】 7綾解釈ノート164参照。ここでは、そのような宿命を持ったソサノヲのこと。
09-010 アシナツチ ソヲノテニツキ
アシナツチとソヲから来た妻のテニツキが
09-011 ヤメウメド オイタチカヌル
八人の女の子を産んだが、大人になるまで育てることができず
カナシサハ ヒカワノカミノ
悲しんでいた。その訳は、ヒ川の上流の
【ヒカワ】 島根県の斐伊川の古称か。
09-013 ヤヱタニハ ツネニムラクモ
八重谷には常に群雲が
09-014 タチノボリ ソビラニシゲル
立ち昇り、その後ろに生い茂る
マツカヤノ ナカニヤマタノ
松や榧の林の中に何人もの
【ヤマタノオロチ】 古事記では「八俣大蛇」、日本書紀では「頭尾各八岐有」と、八頭八尾の大蛇とされているが、ここでは悪者が多数いることを表していると解釈した。
オロチヰテ ハハヤカガチノ
悪者がいて、その中のハハやカガチの
【ハハヤカガチ】 「ハハ」は大蛇。「カガチ」は一般的にはホオズキとされているが、広辞苑では「ヤマカガチ」をうわばみ・大蛇、としている。吉野裕子「日本の蛇信仰」では「カガチ」は大蛇。私は「ハハ」や「カガチ」は大勢の悪党の中の首領格の者の名前と解釈した。
09-017 ヒトミケト ツツガセラルル
人身御供として、七人の娘が囚われの身に
09-018 ナナムスメ ノコルヒトリノ
なってしまい、残った一人の娘の
09-019 イナタヒメ コレモハマント
イナタ姫のこともさらっていこうとしているからであった。
09-020 タラチネハ テナデアシナデ
両親が姫の手や足をさすって
09-021 イタムトキ ソサノミコトノ
悲しんでいるのを見て、ソサノヲが
09-022 カントヒニ アカラサマニソ
訳を聞くと、両親は一部始終を
09-023 コタヱケリ ヒメオヱンヤト
話した。「姫を我に下さるまいか」と
09-024 イヤトイニ ミナハタレゾト
ソサノヲが丁寧に言ったので、「あなたはどなた様でしょうか」と
ウラトヱハ アメノオトトト
素性を聞くと、ソサノヲは「アマテルカミの弟です」と
【ウラトエハ】 「ウラ」は、広辞苑に「心。表に見えないものの意」とある。ここではソサノヲが打ち明けていないこと。名前、素性とした。
09-026 アラハレテ チギリオムスブ
身分を明かし、二人は結婚の約束をした。
09-027 イナタヒメ ヤメルホノホノ
イナタ姫は恐ろしさの余り高熱を出して
09-028 クルシサオ ソデワキサキテ
苦しんでいた。そこでソサノヲが姫の袖の脇を裂いて
09-029 カセイレハ ホノホモサメテ
風を入れたので、熱も下がり
09-030 ココロヨク ワラヘノソデノ
気分がよくなった。それが子どもの着物の袖の
09-031 ワキアケゾ ヒメハユケヤニ
脇を開ける慣わしになった。姫をユゲのソシモリの家に
09-032 カクシイレ スサハヤツミノ
隠し入れ、ソサノヲは変装して
09-033 ヒメスガタ ユヅノツゲクシ
姫の姿になり、真新しい黄楊櫛を
ツラニサシ ヤマノサスキニ
髪飾りに挿した。山に酒を置く桟敷を作り、
【ツラニサシ】 「ツラ」は「カヅラ」の略で、蔓草・花・羽などを頭に巻きつけ、飾りとしたもの。そこに柘植櫛を刺したのであろう。
【サスキ】 仮に作った棚または床。桟敷。
ヤシホリノ サケオカモシテ
八搾りの酒を醸して
【ヤシホリ】 明解古語辞典に「ヤシホヲリ」として「幾度も繰り返して醸造すること」とある。
09-036 マチタマフ ヤマタカシラノ
待っていると、八人の
09-037 オロチキテ ヤフネノサケオ
悪者達がやって来た。八桶の酒を
09-038 ノミヱイテ ネムルオロチオ
飲み、酔って寝てしまった悪者達を
ヅダニキル ハハガヲサキニ
ソサノヲはズタズタに切った。悪者の一人のハハが佩いていた
【ハハガヲサキニ】 このまま訳せば、「ハハの尾の先に」となる。記紀では八岐大蛇退治の話の草薙の剣。ここでは首領のハハが佩いていたとした。
09-040 ツルギアリ ハハムラクモノ
剣があったので、それを取りあげてハハムラクモの剣と
09-041 ナニシアフ イナタヒメシテ
名付けた。イナタ姫が
09-042 オオヤヒコ ウメハソサノヲ
オオヤヒコを生んだので、ソサノヲは
09-043 ヤスカワニ ユキテチカヒノ
ワカ姫のいるヤス川に行って、「以前約束したように
09-044 ヲノコウム アカツトイエハ
男の子を生みました。我は正しかったのです」と言うと、
09-045 アネガメニ ナオキタナシヤ
「姉である私の眼には、まだまだ汝の
09-046 ソノココロ ハチオモシラヌ
心は穢れていると見えます。恥ずかしいと思わないのですか。