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13ワカヒコイセススカノアヤ
ワカヒコ、イセ、スズカを話す綾
【イセ】 「イモヲセ」「イモセ」と同じ。夫婦のこと。ここでの「イセ」は本文で述べられる「イセの道」のこと。「イセの道」とは、夫婦和合の教え。また「イセ」は伊勢の国も言う。
【スズカ】 「スズカ」と「スズクラ」と対比して出てくる。欲心を捨てること。
タカノコフ ツボワカミヤノ
ヒタカミの都のヲシホミミの宮が、
【タカノコフ ツボワカミヤ】 「タカノコフ」はヒタカミの都。「ツボ」はその要所、中心地。為政者のいる所。「ツボワカミヤ」は為政者であるヲシホミミの宮。
アツキヒノ ヱラミウカガフ
ひどく暑かったのでお見舞に伺った
【アツキヒノ ヱラミ】 夏の特別暑い日に、ワカヒコはヲシホミミを見舞ったということか。「ヱラミ」は形容詞「豪い(程度が甚だしい、ひどい)」の語幹に、理由原因を表す接尾語「ミ」が付いたものとして「ひどかったので」と読み、「夏の日の暑さが甚だしかったので」と解釈した。
13-003 ワカヒコニ ミキタマワリテ
ワカヒコ(カスガマロ)に、ヲシホミミが酒を振舞って
13-004 ミコトノリ カミハイモセノ
言われた。「アマテルカミはイセの道に
13-005 ミチヒラク ワレハカスガニ
ついて教え導かれた。吾はカスガに
コレウケン カスガハオナシ
この教えを受けたいと思う」。カスガは威儀を正して
【ハオナシ】 「ハ」は衣装のこと。自分の着ている衣装を整えたのであろう。
ヒタニマス ミギハヒタカミ
左前に座った。右前にはヒタカミ(ヨロマロ)が座り、
【マス】 「イマス」の縮まった語。「在す、坐す」と書き、在る、居る、行く、来るの尊敬語。神社に祭られている神にも「○○に坐す(マス)△△神」などという名もある。
13-008 ウオキミト カルキミヲキナ
続いてウオキミ(七代タカミムスビ)、カルキミの翁(オホナムチ)、
13-009 ツギカトリ カンキミオヨビ
次にカトリカンキミ(カトリカミ)、及び
13-010 カシマキミ ツクバシホカマ
カシマキミ、ツクバ、シホガマ、
13-011 モロモマス トキニミトヒハ
その他大勢が座った。さて、君の問は
13-012 サキニミヅ アビセンツルオ
「以前、吾が水浴びをしようとしたのを
13-013 ウオキミガ トメテマネナス
ウオキミが止めて、水浴びのまねごとだけをしたが、
13-014 コレイカン カスガコタエテ
これはどういうわけなのか」。カスガが答えた。
13-015 ノコルノリ ムカシウビチニ
「昔から伝わってきた教えによると、昔、ウビチニ尊が
13-016 ヒナガタケ モモニトツギテ
ヒナガタケで三月三日に嫁いで
13-017 ハツミカニ サムカワアビル
三日目に冷たい川で水浴びしました。
ソサノヲハ ヒカワニアビル
ソサノヲ尊は凍るような川の水で水浴びしました。
【ヒカワニアビル】 「ヒ」は氷雨などと使われるヒ。前行の「サムカワ」を冷たいとしたので、もっと冷たい「凍るような」とした。
13-019 コレツヨシ キミハヤサシク
この方々は強健だったからです。君はお体が優しく
13-020 ヤワラカニ マセハカガエテ
柔らかでいらっしゃるので、ウオキミはそれをお考えになって
13-021 トドムモノカナ      
お止め申し上げたのでしょう」。
13-022 イセオコフ カスガトクナリ
君は、「イセの道」について尋ねられた。カスガが説明申し上げた。
13-023 イモヲセハ ヤモヨロウヂノ
「夫婦には、この世のどんな家柄でも
ワカチナク ミナアメツチノ
分け隔てなく、等しく天地の
【アメツチノノリ】 「天地の法則」は14綾や18綾に天地開闢に触れる記述があり、それを参照していただきたい。「アメツチノノリ」はこの時代の考え方の原理。概略は、この世が生まれたとき、「メ」と「ヲ」が生じた。「ヲ」は天、日、男(夫)、空・風・火で、それを「陽」とし、「メ」は地、月、女(妻)、水・土で、それを「陰」とする概念である。すなわち、天地の則は男女(夫婦)の則、日と月の則でもあり、それぞれの立場・役割があるということ。
ノリソナフ キミハアマテル
法則が備わっているのです。君は天下を照らす
【キミハアマテル ツキヒナリ】 この場合の「キミ」は君と后の二人をいう。二人が人々のために天下を治めること。
13-026 ツキヒナリ クニカミハソノ
月と日です。国守はその
13-027 クニノテリ タミモツキヒゾ
国を照らす月と日です。民も月と日なのです。
メニホアリ ヒスリヒウチハ
陰にも火があります。木を擦ったり石を打ったりして作った火は
【メニホアリ】 「メ」(陰)の中には、本来陽である火もある。山火事などの自然の火は陽の火で、人が人工的に作り出した火は陰の火と考えていたようである。
ツキノヒゾ ヲニミツアリテ
月の火(陰・大地から生まれた火)です。陽にも水があります。
【ヲニミツアリ】 「ヲ」(陽)の中に本来陰である水もある。炎の中心部の透明に近い部分を炎心といい、そこはまだ燃えていない気体・蒸気の部分。そこに物を入れると蒸気が付くことから炎の水と言ったのだろう。
13-030 モユルホノ ナカノクラキハ
燃えている炎の中の暗いところは
13-031 ホノミツヨ メヲトタガエド
炎の水です。女と男の違いはあるけれども
カミヒトツ ヨヲトハヒナリ
そのおおもとは一つなのです。よい夫は日で
【カミヒトツ】 「カミ」はさかのぼった方、源、おおもと。「アメツチノノリ」にある、空・風・火・水・土の5つの要素が混じってできたアメノミナカヌシが人類の初めと考えられていた。
【ヨヲトハヒナリ ヨメハツキ】 「ヨヲト」は良い夫・男、「ヨメ」は良い妻・女。
13-033 ヨメハツキ ツキハモトヨリ
よい妻は月です。月は元々
13-034 ヒカリナシ ヒカゲオウケテ
自ら光ってはいません。日の光を受けて
13-035 ツキノカゲ メヲモコレナリ
月は光っているのです。女と男もこれと同じです。
ヒノミチハ ナカフシノソト
日の巡る道は中節の外側で
【ナカフシ】 15綾にも出てくるこの時代の宇宙観。地上から天界までの中ほどの所をいい、日はその外側を、月はその内側を巡っていると考えられていたのではないか。ミカサフミのタカマナルアヤ54行目から63行目に、太陽と月の軌道のことと思われる記述がある。そこに「ヒノメグリ ナカフシノトノ アカキミチ ヤヨロトメチノ ツキオサル ツキノシラミチ ヨヨヂウチ」と、本文と同じようなことが書いてある。
13-037 ツキハウチ ヲハオモテワザ
月は内側にあります。男は外での仕事に
13-038 ツトムベシ メハウチヲサメ
務めるべきです。女は家の内を切り盛りし
13-039 キヌツヅリ イヱオヲサムハ
布を織るのです。家長になるのは
13-040 アニナレド ヤメルカヲヤニ
兄だが、病気になったり親の
13-041 カナワヌハ オトニツガセテ
意に叶わなかったりした時は、弟に継がせて
アコトナセ ヨオツクモノハ
跡継ぎとしなさい。代を継ぐ者は
【アコ】 我が子となるが、ここでは世継ぎとなる子。
13-043 ユツリウケ ハシヱテトツギ
家督を譲り受けます。仲人の仲立ちを得て結婚し
13-044 ムツマシク コオウミソダテ
仲睦まじくし、子どもを産み育て、
マタユヅル メハヨニスメル
またその子に家督を譲ります。女は家の外には暮らしていく
【メハヨニスメル トコロエズ】 「女三界に家なし」という封建思想とは違うと思うが、男優位の考え方ではある。この時代、子どもを産み育てることは、きわめて重要なことであった。それには「家」は欠かすことのできないもので、そこで優しくいたわってくれる夫といることがよいということを言っていると理解したい。