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7ノコシフミサガオタツアヤ
遺し文と正邪を裁つ綾
【ノコシフミ】 後世のために書き遺した文。遺言書とも言えようか。
【サガオタツ】 「サ」は、この綾の本文072「ナカバサオエテ」や2綾本文014、015の「サギリ・サツチ」などの使い方から「清い・正しい・善・神聖」などを意味する言葉と考えられ、「ガ」は「悪い・邪(ヨコシマ)・暗い・穢れ」などと考えられる。このような概念を当てはめると、「サガ」は、ここでは「正しい行いと邪な行い・罪のある無し」と解釈してよいのではないか。
07-001 モロカミノ サガオタツトキ
諸臣が人の為した事の正邪を裁く協議をしているとき、
07-002 サホコヨリ ツハモノヌシガ
サホコの国よりツワモノヌシが
07-003 カグミヤニ キギストバセテ
香久宮のアマテルカミに急ぎの使者を遣わしてきた。
07-004 マスヒトガ タミノサシミメ
「マスヒトのクラギネが民のサシミメを
07-005 ツマトナス クラヒメウメバ
妻としました。クラコ姫が生まれたので
07-006 イツクシミ アニノコクミオ
大変かわいがり、サシミメの兄のコクミをも
07-007 コノコトク サホコチタルノ
自分の子のようにして、サホコチタル国の
マスヒトヤ イマハソエナリ
マスヒトにしました。しかし、そのコクミは今はマスヒトの補佐です。
【イマハソエナリ】 コクミは副地方長官に降格されている。6綾本文044参照。
07-009 クラギネガ マカレルトキニ
クラギネが亡くなるときに、
シラヒトオ ネノマスヒトニ
クラコ姫の夫のシラヒトをネの国のマスヒトにしました。
【シラヒト】 クラコ姫の夫。クラコ姫と結婚したことは本文039に「ハハオステ ツマサルイカン」とあることからわかる。後に問題を起こすモチコ、ハヤコとは義理の兄弟となる。
07-011 クラコヒメ ミオタテヤマニ
クラコ姫がクラギネの亡き骸を立山に
ヲサムノチ ハハコオステテ
葬った後、シラヒトはサシミメとクラコ姫母子の面倒を見ないで
【ハハコオステテ】 この前まではこの後に述べられている出来事の背景で、訴えの内容はこれ以降のこと。
07-013 ツニオクル コクミハハコオ
ツ(西国)のコクミの元に行かせました。コクミは母子を
07-014 オカスツミ カンサヒコレオ
犯す罪を犯しました。マスヒトのカンサヒがそれを
07-015 タダサネバ トミコレオコフ
糺さないので、我はこれを糺すようにお願いします」。
ミハタヨリ サオシカニメス
宮より勅使を遣わして、カンサヒとコクミと母子とを宮に呼び寄せた。
【ミハタヨリ】 「ハタ」は機織り機と機織り物の両方の意味が考えられる。23綾本文235以降に、罪の度合いの元になる則の「機織りの則」の説明があるので、このことから「法にのっとり」としたいが、「機織り機」からは法に則り秩序を保つ機能という意味も考えられる。ここでは「ミハタ」と敬称で表されているので、後者と考え、「宮」とした。
07-017 カンサヒト コクミハハコト
カンサヒとコクミと母子とを
07-018 タカマニテ カナサキトワク
宮中で裁いた。カナサキが詰問すると
コクミイフ サシメハマコト
コクミが答えた。「サシミメは、本当は
【サシミメハマコト ワガツマヨ】 サシミメの兄のコクミにとって、サシミメが妻となり得るのは異母兄妹だったということであろう。
07-020 ワガツマヨ キミサリマスノ
我の妻なのです。キミ(クラギネ)が離縁するという
オシテアリ マタトフナンチ
書き物があります」。またカナサキが詰問した。「お前は
【オシテ】 ほぼ同じ言葉だが「オシテ」と「ヲシテ」の二つの表記がある。「ヲシテ」はカミからの文書に使われ、その他の文書は「オシテ」が使われている。
ナニヒトゾ タミトイフニゾ
誰だと心得ているのだ」。「民です」という答えに、
【タミトイフニゾ オタケビテ】 「民だ」との答えに激怒したのは、本来臣としての規範を持つべき者が逃げ口上を言ったため。
07-023 オタケビテ ケモノニオトル
怒鳴りつけて「獣にも劣る
07-024 ツミビトヨ サシメササグル
罪人だ。サシメをクラギネに奉げた
07-025 ユカリニテ マスヒトトナル
縁により、マスヒトになれたのだ。
ミメグミノ キミナリハハヨ
この恩恵を与えてくれたのはキミであり、母とも言えるサシミメではないか。
【キミナリハハヨ】 サシミメは妹であるが、その夫のクラギネはコクミを自分の子のように扱い、マスヒトに取り立てた。そのクラギネの妻は母同然ということ。
07-027 サガミレバ キミオワスルル
汝の罪を判定すれば、キミの恩恵を忘れた罪、
モモクラト ハハモフソクラ
百クラ、母の恩恵を忘れた罪、二十クラ、
【モモクラ】 「クラ」は日本書紀では罪過の単位として「座」の字を当てているが、ここではクラという単位のまま扱う。
07-029 オカスルモ オシテノハチモ
母を犯した罪も文書があると偽った罪も
07-030 モモトモモ ヒメナイガシロ
両方とも百クラ、姫をないがしろにした罪、
07-031 ヰソクラト スベテミモナソ
五十クラと、全部で三百七十クラである。
アマメグリ ミモムソタビオ
一年の日の数と同じ三百六十を元にした
【アマメグリ ミモムソタビ】 多くは「天の巡りの360度」と訳されている。すなわち「タビ」を角度としているようだが、果たしてこの時代、このような細かい角度が通用していたのであろうか。私は「アメノメグリ」を太陽の一巡りの日数と解釈し、「タビ」は数量の単位と考えた。23綾本文097に「サガオカゾエル ミチタテテ ガノミモムソヰ アメノミチ」と、ここと同じような内容の文があるが、注目したいのは「ミモムソヰ」(365)という数である。もし、角度ならば360のままのはずである。時代が移り、太陽の一巡りの日数をより正確に365日とするようになった結果がこの数字に表れていると考える方が、「5」の食い違いが説明できるのではないだろうか。
トホコノリ トコロオサルト
トホコ法によって、(九十クラを超えると)所払い。
【トコロオサル】 罪人を国から追放すること。
サスラフト マジハリサルト
(百八十クラを超えると)流離。(二百七十クラを超えると)禁錮。
【マジハリサル】 人との交わりを禁ずる刑罰。禁錮。
07-035 イノチサル ヨツワリスギテ
(三百六十クラを超えると)死罪。この四つを超えたので
ホコロビト ツツガニイレテ
死刑にする」と断罪し、牢屋に入れた。
【ツツガ】 今日では災難や病気などをいう。ここではそのような訳は当てはまらず、文脈から牢屋とした。
07-037 ネノクニノ シラヒトオメス
次にネの国のシラヒトを呼びつけ、
07-038 タカマニテ カナサキトワク
宮中でカナサキが詰問した。
07-039 ハハオステ ツマサルイカン
「義母のサシミメを捨て、妻のクラコ姫を離縁するとはどうしたことか」。
07-040 コタエイフ オノレハサラズ
シラヒトが答えた。「自分は捨ててはいません。
07-041 ハハヨリゾ ヰヱステイヅル
義母は自ら家を捨てて出て行ったのです。
07-042 ヒメモママ マタモトオトフ
妻も同じです」。またカナサキがシラヒトの出自を訊いた。
07-043 コタエイフ ヨヨノトミユエ
シラヒトは「我は代々クラギネ命の臣で、
07-044 コトナセリ ハハハタミノメ
婿となりました。義母は民の女で
07-045 ススメテゾ キミノツマナリ
それを私が薦めたので、キミの妻となったのです。