超訳、意訳、みんな違ってみんないい?

 8綾は、シムミチ、ハルナハハミチ、ヰソラミチ、ミダルキクミチ、ヰツナミチ、アヱノミチという、アマテルカミの社会と敵対する「ハタレ」と言われる6集団との戦いが書かれていますが、「ハタレ」とはいったい何者なのでしょうか。勉強させて頂いた先達のみなさんはどのように訳しておられるのか、参考までに本文180から186までの該当部分をご紹介します。
本文(カタカナ書き)
カタマロガ イタレバハタレ
イロカエテ サキミダレタル
キクミチノ ココサワユクヤ
ヒメオドリ ムラクモタビヤ
ホタルビノ ワライアザケリ
イカリビノ アオタマハケバ
ススミエズ カタマロカエリ

吾郷清彦氏「日本建国史 全訳ホツマツタヱ」(國書刊行会・絶版)98頁
荷田麿が 到れば禍鬼
顏色(イロ)変えて 咲き乱れたる
魌窶魅魑(キクミチ)の ここ沢行くや
姫をどり。叢雲乗炬(タビ)や
蛍火の 笑ひ嘲り
怒り火の 青玉吐けば
進み得ず。荷田魔(麿の誤り?)帰り
池田満氏「日本 ヲシテ研究所『ヲシテ文献 大意』解説文」(Webサイト)

「ヲシテ文献 大意」については、二次使用が禁じられていますので、引用を控えます。該当箇所は、池田満氏のサイトの≪『ホツマツタヱ』の大意 6~10アヤ≫の31ページにあります。

今村聰夫氏「はじめてのホツマツタヱ」(かざひの文庫)155頁~156頁
 カダマロが現地に到着すると、ハタレは野山に咲き乱れる菊の花に化け、様々に色を変えて驚かせます。頭目(カミ)である三人のキクミチは、一面に咲き乱れた菊の花の中に、女の姿になって妖艶で下卑た踊りを踊って見せます。かと思うと突然叢雲を湧き起こして辺りを暗くし、あちこちにゆれる鬼火や、飛び交う蛍火を出現させ、笑いあざけりの声をこだまさせました。カダマロが勇気を奮い立たせて近づくと、青玉の焔を吐いて威嚇します。
 さすがのカダマロもそれ以上進むことができず、引き揚げてイサワの宮に戻り報告すると、
駒形一登氏「ほつまつたゑ 解読ガイド」(Webサイト)
カダマロが 到れば ハタレ
色 変えて  咲き乱れたる
キクミチの ココ 騒ゆくや
埴水躍り  叢雲 灯火や
蛍火の   笑いあさけり
怒り霊の  穢汚霊 吐けば
進み得ず  カダマロ帰り
ジョンレノ・ホツマ氏「ホツマツタエの解読を楽しむ」(Webサイト)
「かだまろ」(荷田麿)が花山の野に着くと、「はたれ」どもは辺りの景色を一変させ、菊の花が咲き乱れている菊の道の「ここさわ」(菊沢)を行くと、姫が踊っているは、むら雲が立ち上り、松明が灯り、蛍火が降り注ぎ、嗤い嘲り、怒り火の青珠が吐きだしており前に進めませんでした。
「かだまろ」(荷田麿)は一旦引き帰り、
高畠精二氏「日本翻訳センター『ホツマツタエ』」(Webサイト)
 カダマロは早速、神軍(カミイクサ)を率いて花山野に到着すると、ハタレはたちまち辺りの景色を一変させ驚かせ、そこここに色とりどりの菊の花が一気に咲き乱れました。この菊沢(ココサワ)を掻き分けてさらに進軍すると一面色彩(いろどり)鮮やかな花園を舞台にどこからともなく聞こえる妙(たえ)なる楽(がく)の音に誘われ華やかな姫踊りが始まりました。諸神達(モロカンタチ)がうっとり見とれ釘付けになって動けなくなったその時に、突然叢雲(むらくも)が立ち昇り四囲(しい)は暗闇にすっぽり包まれて不気味な静けさ、いつの間にかそこここに松明(たいまつ)が灯り、ゆらゆらと風も無いのに揺れ初めました。頭上からは星が降るように青白い蛍火が降りそそぎ、目も開けられない有様でついに蛍の大群に阻まれてしまいました。
 このにっちもさっちもいかない様子を笑うかの様に嘲(あざけ)りの大声が響き渡ったかと思えば、怒りの青珠(アオタマ)がそこかしこから吐き出して行く手を塞ぎ進退極まりました。
 カダマロは戦陣を一人そっと抜け出し天(アメ)にこの戦況を申し上げると、
千葉富三氏「甦る古代 日本の誕生」(文芸社)143頁
荷田麻呂が 到れば破垂
色変えて 咲き乱れたる
狐狗道の 菊沢行くや
姫踊り 叢雲手火や
蛍火の 笑ひ嘲り
怒り火の 青玉吐けば
進み得ず 荷田麻呂帰り
鳥居礼氏「完訳秀真伝」(八幡書店)425頁,455頁
荷田麿命が 至ればハタレ
色変えて 咲き乱れたる
キク道の 菊沢行くや
姫踊り 叢雲松明や
蛍火の 笑ひ嘲り
怒り火の 青玉吐けば
進み得ず 荷田麿命帰り

 荷田麿命が花山に至ると、ハタレは妖術を用いてあたり一面に菊を咲かせました。そのハタレは六ハタレの一派キク道だったのです。荷田麿命が菊の咲き乱れた沢を進み行くと、姫が現れ舞いをはじめ、あるいは叢雲を起こしてあたりの光を閉じました。暗い道を松明で進んでいくと、こんどは蛍火を飛ばして笑い嘲ります。怒りの火を青魂にして飛ばしてくるので、その妖しさに荷田麿命は進み得ず、やむなく天照神のもとへ帰ってこられました。
から、引用元のWebサイトや書籍の情報サイトを見られます。


そして以下が拙訳です。
 カタマロが花山にやってくると、ハタレは血相を変えて、先頭の者達は右往左往した。キクミチの集まっているココ沢を行くと突然燃える火が目を奪った。煙をもくもく出す松明や燃えさしの枝を持ってハタレ達が笑い嘲り、怒りをむき出しにして、青い木の実を投げてきたのでそれより先に進むことができなかった。
 ちなみに和仁估の漢訳では、「ハタレ」は000(本文の行番号)ハタレウツアヤ→破術魔王、 018ハタレノモノノ→幽忠貞之者、058ハタレヤブレ→為破魔元師、083ハタレカミ→大魔錦蛇王、087オオハタレ→大魔王などと書かれています。
 鳥居礼氏は注釈で、「ハタレは「動詞『徴(ハタ)る』の名詞形と考えられる。『徴る』は責めうながす、催促するなどの意。(出典部分略)動物霊の霊力を備え、庶民を先導して宮中を危ういものにせんと目論む。」と書かれています。
 私も解釈ノートに、徴(ハタ)る「催促する、とりたてる」が語源のようで、人の物を無理やり奪うような人達を指すと書きました。わかりやすい言葉で書かれていますので、原文を読んでほぼイメージはわく文で、確かに原文通りに解釈すると、ハタレは妖術を使う者や狐などの化身となりますが、後にハタレの頭目の一人ハルナがアマテルカミの臣下となり、親しく会話している場面もあるので、私は彼らを人間として解釈しました。極力原文に沿いながら史実が書かれているという視点で訳し、「魔王」や「妖術」や「霊力」も現実の出来事として表現したので、結果的にとんでもない大意訳となってしまいました。ですが、おとぎ話的な内容の中にも、人の命への敬虔な思いが感じられる文であると思います。この綾以外にもこのような「超訳」がありますが、ホツマ文字の本文と読み比べていただき、ここでご紹介した先達の方々の訳を参照されて、よりよい解釈の訳をしていただきたいと思います。その折はぜひお教えください。
・・・・・平成28年1月26日