アマテルの教え

 8綾の「魂返し、ハタレ討つ綾」を、私は歴史の中の出来事として訳しました。素直に読めばハタレが妖術を使うと訳せて、それはそれで物語としてはなかなか面白い綾です。また、解釈によっては大和朝廷と朝廷に従わない地方豪族との戦争という見方もできるでしょう。でも、私がいいなあと思うのは戦いの場面ではありません。以下はこの話の底に流れる「人間味」というか、アマテルカミをはじめとした人々の、人を大切にする精神に心惹かれた箇所の訳文の抜粋です。
 よく状況を見極めることがアマテルカミの御心が通じて、むだな争いが起きない、アマテルカミの御威光に沿う最善の方法です。ただただ優しく接することが最良の手立てなのです。
 フツヌシは諸臣と弓懸をして、再び向かって行き矢を射るように煽った。ハタレは矢に当たっても蘇ったのかなと思い、「痛くなかったのか」と言った。フツヌシは「弓懸がある。どうして痛いものか。これを受けてみろ」と羽々矢を放つと、ハタレも掴み取った。二人は共に笑った。
 タケミカツチが自ら山にハタレ達を引っ張って登って行くと、ハタレ達の多くは首がしまって死んでしまった。死んだ者は山に葬って生き残った百人をササ山の牢屋に入れた。タケミカツチが自分の怪力でハタレを死なせてしまった過ちを悔い、喪に服し謹慎していると、その様子をアマテルカミが聞かれて、皇子のクマノクスヒに喪に服しているわけを聞きに行かせた。タケミカツチが「我が誤って大勢のハタレを引っ張って殺してしまいました」と言った。
 ハタレのそれまでの悪い心を取り除き、悪いことをしないと誓約させた。そして、ハタレ達に海水で禊ぎをさせ、彼等の影をマフツの鏡に写して、ほとんどのハタレは真人間になったと確信した。彼らはみなアマテルカミの民となった。
 改心させようのない百三十人を殺した。アマテルカミが「殺してしまったら、ハタレは生前の悪業でずっと苦しむことになるぞ。真人間になるまで生かしておけば、真人間になった時は吾の民となれるのだ」と言われた。
 大勢のハタレ達はアメヱノミチの首領の影響と恐怖から逃れることができて、チワヤのアメヱノミチを破ったアマテルカミの恵みだと、みな何度も何度も拝んだ。
 アマテルカミがカナサキに言われた。「大勢のハタレを切ったが、魂返しをして、ハタレの乱れた魂の緒を解いたのでハタレも神となるであろう。吾の心は晴れ晴れと清々しい」。
 ホツマツタヱはアマテルカミの言動をはじめとして、全編を通して人間愛に満ちています。よく日本人には信仰心がないと言われます。確かに多くの日本人の心の中には宗教の教義や戒律や偶像崇拝のようなものはあまりないと思います。ですが、時として海外で称賛の的になる道徳的な行為や無私の行いは、それとは意識せずに脈々と受け継がれてきた「ホツマの教え」または「アマテルの教え」といった宗教を超える精神性なのではないかと、ホツマツタヱを勉強して思うのです。
・・・・・平成28年10月29日