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渡した。アチヒコはつい受け取って見てしまった。
先頭の番号が青い行は、クリックすると解釈ノートが見られます。
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「キシイにおいでなさい。わたくしを妻としてあなたの傍に置いてください。
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琴を弾いてお聞かせしたいと、独り寝の床であなたを
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恋しく思っています」。
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アチヒコは仲人を立てないで
【ハシカケ】仲人。
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結婚するのはどんなものかと思い、歌で返そうとしたけれど、
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返すことができない回り歌なので、返歌も詠めず
【カエラネバ】「キシイコソ・・・」の歌は、前から読んでも後ろから読んでも同じ文になる回文。この時代、回文には返歌ができないという決まりがあった。
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「お待ちください、後でご返事します」と言った。
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アチヒコはワカ姫の歌を持ち帰って、イサワの宮に行き
【タカマ】タカマノハラのこと。天界だけでなく地上にもあるとされた。ここでは地上のタカマノハラをいい、清浄な所、また宮や宮中の賢所も指す。この場合はイサワの宮。タマツ宮へ勅使として行ったアチヒコがワカ姫にプロポーズされ、困ってイサワの宮へ相談しに行ったということ。
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宮中にいる人たちに聞いた。カナサキが言った。
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「この歌は返すことができない
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回り歌ですね。われもアマテルカミの行幸の
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船にお供したことがありますが、その時風が激しくて
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荒波が立ったので、ひっくりかえされまいと
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みんなで回り歌を詠みました。
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ながきよの とおのねぶりの
【ナガキヨノの歌】現代でも、正月2日の夜、良い初夢を見るようにと七福神の絵を枕の下に置く風習が残っており、その絵にこの歌が書かれている。現代語に訳すと「長い夜の深い眠りのような状態(波に翻弄されて思うようにならない状態)から、(波が収まり)みんな目覚めて、(穏やかな波に)揺られる船の、音の快いことよ」というようなことか。
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みなめざめ なみのりふねの
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おとのよきかな』
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と詠えば、風は止んで船は
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快適に阿波の国に着きました。
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ワカ姫の歌も自分の想いを
【ミヤビ】上品で優雅なこと。ホツマツタヱで使われている「ミヤビ」は宮人としてのあり方(慈しみの心、考え方、判断力、礼儀作法など)や生き方を表している。この場合は、礼儀として返歌をしなければならないのを返させないようにした恋心。
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断らせまいとしたのでしょう」と言えば、アマテルカミも
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言われた。「カナサキの、船での回り歌の
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教えを受けたのだから、夫婦となるのがよい」。
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アチヒコは、ヤスカワのシタテル姫と
【ヤスカワノ シタテルヒメト】ワカ姫は結婚してシタテル姫と名乗り、ヤスカワに住んだ。
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結婚した。シタテル姫がイナゴを払ったオシ草の種の
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黒いヌバタマから咲く花の色はほのぼのとしている。
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カラスバ（オシ草・ヒオウギ）の花の赤い色は日の出の色のようである。
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ヒオウギと同じ音の檜扇という、檜の板で作った
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扇を持ってキミは国を守り治める。それは世の中を明るくするようにという
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キミへの教えなのである。カラスオウギ
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（ヒオウギ）の葉は十二枚である。檜扇の羽の数は
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どれも祓いのアワ歌の四十八音と同じ数である。
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また、まじないの歌は三十二音で表す決まりを忘れてはいけない。
【ミソフ ミチナワスレソ】まじないのワカ歌としての32音のワカ歌は前出の「タネハタネ…」がある。
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ハナキネは歌を五・七に綴るのはなぜかと
【ハナキネ】ソサノヲ
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姉のワカ姫に聞いた。姉が
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「それはアワの節です」と答えると、またハナキネが「祓いの歌は
【アワノフシ】アワ歌と同じ五七のリズムだということ。
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三十二音です。それではワカ歌が三十一音なのはなぜですか」と聞いた。
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ワカ姫は教えた。「日の一巡りは
【アメノメグリノ ミムソヰヱ】ここからのワカ姫の話の内容が難解。まず、「ミムソヰヱ」は365日だが、これは暦の日数を言っているのではない。この時代の暦は、「モチ(望・15日)」「ユミハリ(弓張・7日、23日)」などと表現されているので、月の巡り、いわゆる太陰暦が使われていたと考えられる。ちなみに一日は「ハツ、ハツヒ、ツイタチ」などと書かれている。「ツイタチ」は「月立ち」と辞書にはあるが、わたしは「月断ち」の方が新月の日を表現するにはふさわしいと思う。「ミムソヰヱ」は暦とは別の、太陽の巡り(地球の公転周期)のことで、それは四季を表し、かつ上中下旬の三つに分けて農作業などの目安などに使われたと思われ、暦の日数ではないだろう。以降の説明でその一つ(今の一か月)を「季旬」と表すことにする。この時代でも太陽の巡りの日数が日の出の位置などから分かっていたとしても不思議ではない。
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三百六十五日です。それを四つに分け、それぞれを三つに分けると
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一旬は三十一日になります。月の巡りは遅れて
【ミソヒナリ】31日は正確な計算ではない。繰上げでの計算か。
【ツキハオクレテミソタラズ】月の満ち欠けの周期は29.5日で、30日には足りないというのは当たっている。
【ツキハオクレテミソタラズ】月の満ち欠けの周期は29.5日で、30日には足りないというのは当たっている。
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三十日に足りません。正しくは（一旬は）三十一日なのです。
【マコトミソヒゾ】31日区切りで1年を分けると、農作業など、生活に即した自然との関わりができることを言っているのか。このことから和歌が31音であることが普通であると言っているのではないか。
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けれども、前後の日にかかって
【アトサキカカリ ミソフカモ】「アトサキカカリ」が、何の後と先がかかるのか、それがどうして32日となるのか不明。何かの区切り方で、1日が前か後の「季旬(今の一か月、私の造語)」について32日と30日になる「季旬」があるとでもいうのだろうか。そこで、仮説というより空想(妄想?)に近いと思うが、次のように考えてみた。解釈ノート131に書いたように、人々、とりわけ宮人や役人の生活には朔に始まり望をへて朔になる月の暦(太陰暦)は便利なものだった。しかし主たる産業の農耕は季節とズレが生じ調整を繰り返す太陰暦より、太陽の巡りをもとにした「自然暦」とか「農事暦」というような考え方が便利だった。山の雪解けの様子や桜の開花など、今でも使われているという季節の目安と合わせて、冬至から冬至までの日数約365日を春夏秋冬の四季に分け、それを上旬、中旬、下旬とした12区切り(12旬)で農作業の節目を表す農事暦といった考え方があった。その区切り方は、まず12旬をそれぞれ30日とする。5日余るので四季に1日ずつ振り分け、31日の季旬を作る。なお1日余るのと、それに加えて太陽の位置のずれを修正するために4年に1日増やす閏年が回ってくるのとで、32日とする季旬ができる。このような通常と違う日は「凶」の日として意識された。こんな空想はどんなものだろうか。
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三十二日になることもあります。このようになる隙間を窺う
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邪悪なものを払う時には、歌の
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音を一音多くするのです。敷島の国に
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男の子が生まれると、三十一日目に、