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「弓懸がある。どうして痛いものか。
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これを受けてみろ」と羽々矢を放つと、
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ハタレも掴み取った。二人は共に笑った。
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「土産があるぞ」とフツヌシが言って、アマテルカミからのオコゼを
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授けると、ハタレは喜び、
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「アマテルカミはどうして、わしの好きなものを知っているのか」と言った。
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そこでフツヌシが「汝もアマテルカミの好きなものを知っているか」と言うと、
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イソラが答えなかったので、フツヌシは笑いながら言った。
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「アマテルカミの好きなことはハタレを殺すことだ」。ハタレは怒って
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「どうしてだ」と言うと、フツヌシは「汝は得意になって
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ひとを騙すから、イソラを討つのだ」と言った。
【バクル】
化ける。ここでは騙すとした。
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イソラはなお怒って、岩を蹴り上げて
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罵ったが、フツヌシはオコゼを
【オコゼ】
カサゴの仲間の魚。山の神の供物にするなど、山の神と関係のある伝承が多い。
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ハタレ軍の中に投げ入れた。ハタレ達が奪い
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争っているところを、フツヌシの軍は蕗を
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焚いて燻した。ハタレ達がむせて
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退くところを追い詰めて
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千人のハタレ達を縛りあげた。こんなことは昼寝をしているようなものだと、
【コレモヒルネ】
きわめて簡単なこと、非常に容易なこと。現代の言い方では「朝飯前」というところ。
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なお勇んで、四方から囲い
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イソラの首領もついに縛り
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牢屋に入れた。千百人のハタレ達も
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その国の一族に預けて
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みな帰った。
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また、ハタレが伊予の山から
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紀志井の国に渡って攻めてきたと
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トツ宮の使者が伝えたので諸臣が集まって
【トツミヤ】
弟ツ宮。アマテルカミの弟のツキヨミの宮
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宮中会議を開いた。アマテルカミが予ねてカナテという名前を
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賜ったタケミカツチに
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太環餅を授けた。タケミカツチは急ぎ
【フトマカリ】
「マカリ」は広辞苑等にある「まがりもちい(環餅)」(もち米の粉をこねて引き伸ばし、色々な形に作り曲げて油で揚げたもの)のようなものと解釈した。「フト」も広辞苑によれば、油で揚げた餅。
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その怪力でハタレを鎮めようと高野に行った。
【カナテント】
「カナテ」は金属の手、すなわち、剛腕・力持ち。怪力を発揮して。
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ヰツナミチがたくさんの獣を
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操って襲ってきた。タケミカツチが行くと、
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ハタレの首領が進み出てきて言った。
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「先のシムミチとヰソラミチの二人をわしに返せ。
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返さなければ、アマテルカミといえども捕えてしまうぞ」。
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タケミカツチが笑って言った。
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「我の力は誰よりも優れていて
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雷でも汝でも捻りつぶしてしまうぞ。
【イカツチ】
雷。力が強いものの例えとして言った。
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さあ、縄を受けよ」。ハタレは怒って
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戦いを仕掛けてきた。ミカツチ軍の者が投げ入れた
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フトマガリモチを一斉に群れて貪り食う
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ハタレ達を攻めて追い詰め
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みな縄で縛り上げた。ついにイツナの首領も
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蕨縄で縛った。百人を一連ねに
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繋いで、全部で九千九百人を
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次々に縛った。それはまるでヒヨドリ草の
【ヒヨドリグサ】
小頭花を多数つけるヒヨドリ花のことか。花の様子が、繋がって縛られているハタレの様子を想像させたのだろうか。
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ようであった。タケミカツチが自ら山に
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ハタレ達を引っ張って登って行くと、ハタレ達の多くは首がしまって
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死んでしまった。死んだ者は山に葬って
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生き残った百人をササ山の
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牢屋に入れた。タケミカツチが自分の怪力でハタレを死なせてしまった
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過ちを悔い、喪に服し謹慎していると、その様子を