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19-142 アカルタエ キヌハモチヒズ
『明妙』の方法で乗ります。手綱には絹を用いないで
19-143 チヂミヌノ チチメルユフデ
縮み布を使います。縮み布は縮織りをしたユウで
19-144 ヤタフタツ ソノミヅツキオ
八咫のものを二本用い、その端を
19-145 ハニユヒテ テヅキオコシニ
轡に結んで、手に持つ方を腰に
19-146 ハサミオブ コノフタスチオ
挟んで結びつけます。この二本の綱を
19-147 ミキヒダリ コシノヒネリニ
左右に結び、腰をひねることによって
19-148 ツナオヒク ムマノココロニ
手綱をさばきます。馬の気持ちを
19-149 コタエテゾ タエナルワザオ
汲み取ってこそ、見事な技が
19-150 ナスタトエ アメツチツナグ
できます。例えば、アメミヲヤは天と地を結ぶ
ナカクニノ イキニツキヒノ
天の御柱を通る息で月日を
【ナカクニノ】 文脈からは「天の御柱」と考えられるが、「クニ」が解らない。他の写本には「クシ」となっているのもあり、それだと「串や蝋燭の心のように中を貫いているもの」というイメージで「天の御柱」と訳せるので、ここでは「クシ」と読み替えた。
19-152 ナガミヂカ ハルアキトナス
長くしたり短くしたりします。それが季節を春や秋にする
19-153 ミヲヤカミ カクコシツカフ
アメミヲヤの技なのです。これと同じようなもので、腰で手綱をさばくのを
19-154 アカルタエ ワサオオモハバ
『明妙』といいます。より上達しようと思えば
19-155 クラシキテ ユキツモトリツ
馬に鞍を載せて、行ったり来たりしながら
19-156 ムソアユミ アシドリオミテ
何度も歩いて、馬の足取りを覚えて
19-157 ノチニノル チミチノアブミ
それから実際に乗ります。並み足の時の鐙は
カナツクリ カケハヲザシノ
金物で作ります。駆けるときは鐙をカラムシの布で包み
【カケハヲザシノ】 「ヲ」はカラムシの別名。別名には、苧麻(ちょま)、青苧(あおそ)、真麻(まお)、紵(お)などとあり、紵は古代には「ヲ」という表記もある(ウィキペデイアより)というので、「ヲ」をカラムシとした。「ザシ」は挿すこと解釈し、「カラムシで作った鐙カバー」のようなものと考えた。馬が激しく動くときに金物で馬の脇腹を痛めないようにしたのではないか。ここから「ヒトヌキマ」までが厳(イヅ)乗りについての説明。
19-159 ツリナワモ ヰツキミジカク
吊り縄も五寸短くします。
19-160 ヂミチニハ ハルビユルクテ
並み足の時は腹帯を緩くして
19-161 ヰツユビノ トフルホドヨシ
指が五本ほど通る程度がよろしいが、
19-162 ヰヅカケハ ハルビユルメズ
疾走する時は、腹帯は緩めないで
チトシメテ シトナメキツナ
少し締め気味にします。下鞍ときづなと
【キツナ】 「きずな」の見出しで「馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。」と広辞苑にある。
ムナガヒモ シホデニソエテ
胸掛も四方手に結びつけます。
【シホデ】 鞍の前輪と後輪(しずわ)の左右4か所に付けた金物の輪に付けた輪状の紐。
クツハツナ ヒトタケムタノ
手綱は一丈六咫の綱を
【クツハツナ】 タヅナ、ヒキツナ、キツナ、クツワツナと、紛らわしいが、文意を考えると、クツワツナはタヅナと同じ「手綱」ではないか。
【ヒトタケムタ】 アカルタエでは「ヤタフタツ(8咫のもの2本)」を使うが、通常は1丈6咫の綱の両端を轡に結んだのだろうか。「マタテルタエハ」の後に改めて「タケムタ」とあり、脈絡が分かりにくい。私は、ここでは1丈6咫の手綱の場合も、8咫の手綱2本と同じように両手で持つことと解釈し、「照妙」の時は片手でも持つことと解釈した。
19-166 ナカホドオ キツナニソエテ
二つ折りにしてきづなと一緒に、
19-167 クツハミノ ワニユフハシオ
轡の端に結び、その端を
19-168 マテニモツ アダバシリナキ
両手で持ちます。これでむやみに走らせることのない
ヒトヌキマ マタテルタエハ
『ヒトヌキマ』の手綱さばきができます。また『照妙』は
【テルタエ】 詳しい説明がある「明妙」に比べて分かりにくいが、私の想像では、「テルタエ」は1丈6咫の綱の両端を轡に結び、通常は中ほどを持ち普通の手綱の持ち方をして、「ヒトヌキマ」(基本の手綱さばき)をするが、非常時には片手で武器などを使い、もう一方の手だけで手綱をさばくことか。また、輪状になった手綱に体を通して腰のひねりでも操作できるようにしたのか、この文だけではこのくらいしか考えられなかった。詳しい方の考えをお聞かせいただきたい。
19-170 タケムタノ ソノミツツキオ
一丈六咫の手綱の端を
19-171 マテノワニ ユヒテナカモツ
轡の両端に結んで、綱の中程を持ちます。
19-172 アカタヱト ヌキマオカヌル
『明妙』と『ヒトヌキマ』とを兼ねる
19-173 テルタヱヤ ムマノサタメハ
『照妙』の乗り方です。使用する馬の規準は
メハナヨリ オホネエヤタノ
目鼻から尾骨まで八咫で
【メハナヨリ】 「メハナ」は「目鼻」。馬が顎を出さない状態だと尾骨から目と鼻までの長さはそう変わらない。
19-175 ツツタチハ ヰタヰキノリオ
馬の体高は五咫五寸という決まりがあるので、
ハツキモチ サツキヰツカノ
八月の望の日の駒引きや五月五日の乗り弓の
【ハツキモチ サツキヰツカノ コトホギ】 広辞苑によれば、平安時代に「ハツキモチ」(8月15日)に宮中で御料馬展覧の儀式の「駒引き」が行われた。古代、「サツキイツカ」(5月5日)に朝廷で、馬上で弓を射る「馬弓」が行われた。本文102の「ノリユミ」は「馬弓」のこと。駒引きは、平安時代より古くから行われていたようだ。
19-177 コトホギノ ノリニカケタハ
祝い事に決まりに合わない馬を使うのは
19-178 アヤシアリ タトエフトクト
問題があります。例え肥えていても
19-179 ヤツヰヰノ ワリアヒカガヱ
八咫、五咫五寸という基準をお考えに
19-180 タマフヘシ ココニミマコノ
なるのがよろしいでしょう」。こうして御孫ニニキネは
19-181 ヂミチノリ ノリナレネリテ
並み足も乗りなれ熟練し、
19-182 アレノリモ ヒツミツキヘテ
荒れ乗りも日を重ね、月を経て
ツヒニヱテ マタイヅノリオ
ついに技を会得した。また厳乗りも
【マタイヅノリオ トシカサネ】 これまでの文から、並み足、厳乗り、荒れ乗りの順に難しくなるように思えるが、ここでは最後が厳乗りとなっている。本文067節に、厳乗りの技が五十九と、一番多く書かれていることから推測すると、より速く走らせる技術は奥深く時間がかかるのだろうか。
19-184 トシカサネ ワザヱタマエハ
年を重ねて技を習得されたので
ミコトノリ ヰヅノヲシテオ
アマテルカミから「ヰヅ」という称号を
【ヰヅノヲシテオ タマヒケリ】 本文085でヲバシリが「ヰヅ」という称号を賜っているが、ここで「ヰヅ」という称号を受けたのはニニキネ。ニニキネは後に「イカヅチワクルイヅノカミ」と言われている。「ヰヅ」は「ヰヅノリ」に由来しているようである。ついでながら、「ヰヅ」は「イヅ、イツ、ヰヅ」など表記が乱れている。
19-186 タマヒケリ タカヒコネニハ
賜った。タカヒコネは
フタアレノ ヲシテタマエバ
「フタアレ」という称号を賜り、
【フタアレ】 「アレ」は「荒れ乗り」のことと思われるが、「フタ」が何を表すのか分からない。日光の二荒山神社にアジスキタカヒコネが祭神として祭られているので「二荒」と書くこともできるかもしれないが、意味が特定できないのでカタカナ書きとした。
19-188 コモマコモ ムマノキミナリ
子も孫も「馬の君」と呼ばれた。
クスリニハ ヒトミコマヒザ
馬の薬には、ヒトミ、コマヒザ
【ヒトミコマヒザ…マメハゴゾ】 馬の薬になる植物だが、卯花と葛の他は不明。