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35-052 アメヒボコ モロスケオウム
アメノヒボコの子はモロスケ、
35-053 モロスケハ ヒナラギオウム
モロスケの子はヒナラギ、
35-054 ヒナラギハ キヨヒコオウム
ヒナラギの子はキヨヒコ、
キヨヒコハ タジマモリウム
キヨヒコの子はタシマモリである。
【タシマモリ】 後にイクメイリヒコイソサチ(垂仁天皇)の臣として重要な働きをする人物。
35-056 ヨホナツキ ツウヱハヲナエ
四年九月ツウエ一日オナエ、
35-057 サホヒコガ キサキニトフハ
后の兄のサホヒコが后のサホ姫に聞いた。
35-058 アニトヲト イツレアツキゾ
「兄と夫とどちらが大事か」
35-059 キサキツヒ アニトコタフニ
后がつい「兄です」と答えると、
35-060 アツラウル ナンヂイロモテ
サホヒコは「それは丁度よいことだ。汝は容色がよいので
35-061 ツカユレト イロオトロイテ
君に仕えていられるが、容色が衰えて
35-062 メクミサル アニナガカラン
君の寵愛がなくなるのは、そんな先の話ではないだろう。
35-063 ネガハクハ ワレトナンヂト
そこで頼みがある。我と汝とで
35-064 ミヨフマバ ヤスキマクラヤ
君の御位につけば、安心して眠ることが
35-065 タモタンゾ キミオシイセヨ
できるだろう。君を亡き者にしろ。
35-066 ワガタメト ヒボガタナモテ
自分のためだ」と紐刀を取り出し、
35-067 サヅクトキ アニガココロネ
サホ姫に持たせた。その時、兄の心根を
35-068 イサメオモ キカヌオシレバ
諌めたが、聞き入れないことがわかり、
35-069 サホヒメノ ナカゴワナナキ
サホ姫は心中恐ろしさに震えながらも
35-070 ヒモカタナ センカタナクモ
紐刀を仕方なしに
35-071 ソデウチニ カクシイサメノ
袖の中に隠した。己を諌め
セミナツキ ハツヒスメラギ
責めているうちに六月一日になり、君は
【セミナヅキ】 「責める」と次の「ミナツキ(6月)」を掛けてある。
35-073 ミユキシテ クメタカミヤニ
クメタカ宮に御幸し、
35-074 ヒザマクラ キサキオモエバ
后の膝枕で休んでいた。后はもし実行するとしたら
35-075 コノトキト ナンタナガルル
このような時だと思うと、涙があふれ
35-076 キミノカホ キミユメサメテ
君の顔に滴り落ちた。君はまどろみから覚めて
35-077 ノタマフハ イマワガユメニ
后に話しかけた。「いま、吾は、
35-078 イロオロチ クビニマトエテ
美しい蛇が現れて首に巻きつき、
サホノアメ オモテヌラスハ
柔らかな雨が降ってきた夢を見た。サホ姫も涙で顔を濡らしているが
【サホノアメ】 「サホ」は文章上では「サホ姫」の暗示だろうが、君の言葉の意味としては、「ホ」を「ホソ」(細)と捉え、接頭語の「サ」の付いたものとして訳した。
35-080 ナニノサガ キサキコタエテ
何か訳があるのだろうか」后はこらえようとしたが
35-081 カクシヱズ フシマロビツツ
心中を隠しきれず、身悶えして
35-082 アカラサマ キミノメグミモ
事の次第を包み隠さず打ち明けた。「君のお恵みに
35-083 ソムキヱズ ツグレバアニオ
叛くこともできず、さりとてお話すれば兄を
35-084 ホロボセリ ツゲザルトキハ
滅ぼすことになります。お話しなければ
35-085 カタムケン オソレカナシミ
君のお命が危ないことになります。その恐ろしさと悲しみで
35-086 チノナンダ アニガアツラエ
血の涙がこぼれたのです。兄が狙っていたのは
35-087 ココナリト キミガヒルネノ
この時だと、君が私の膝枕で
35-088 ヒザマクラ モシヤクルエル
お休みになっておられる時思いました。もしも、私の気が狂って
モノアラバ タマサカニエル
しまったら、あってはならない
【タマサカニ エルイザオシ】 素直に訳すと、「思いがけず得た功績」と、兄の側の立場の言葉になるが、姫が君にこのような表現はできないので「あってはならない謀反」とした。
35-090 イザオシト オモエバナンダ
謀反を犯すことになるのかと思うと、涙が
35-091 フクソデニ アブレテミカホ
拭く袖からあふれ落ちて、君の御顔を
35-092 ウルホセリ ユメハカナラズ
濡らしてしまったのです。君がご覧になられた夢はまさに
35-093 コノコタエ オロチハコレト
このことです。蛇はこれでございます」と、
35-094 ヒモカタナ ダセバスメラギ
紐刀を出すと、君は
35-095 ミコトノリ チカガタニアル
サホヒコを討つように詔を下した。近くの県に住んでいる
35-096 ヤツナダオ メシテサホヒコ
ヤツナダを召して、サホヒコを
35-097 ウタシムル トキニサホヒコ
討たせようとした。ところがサホヒコは
イナギナシ カタクフセギテ
稲城を作って、頑強に抵抗し、
【イナギナシ】 「イナギ」は古代、家の周囲に稲を積み上げて、敵の矢や石を防ぐ防壁としたもの(大辞林)
35-099 クダリヱズ キサキカナシミ
なかなか降参しなかった。后は悲しみ、
35-100 ワレタトヒ ヨニアルトテモ
「私は、例え生き永らえたとしても、
35-101 シムカレテ ナニオモシロト
兄が死んで、何が楽しいものだろうか」と
35-102 ミコイダキ イナギニイレバ
皇子を抱いて稲城の中に入ってしまった。
35-103 ミコトノリ キサキトミコオ
君は「后と皇子を
35-104 ダスベシト アレドイダサズ
中から連れ出せ」と命じたが、連れ出せなかったので、
35-105 ヤツナダガ ヒセメニナセバ
ヤツナダが火攻めにすると、
35-106 キサキマヅ ミコイダカセテ
やっと后が皇子を抱いて