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熱田神 世を辞む綾
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纏向の日代の宮の暦の
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四十一年春、ヤマトタケ君が
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木曽路から尾張に着いて
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タケドメの孫のムラジの
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家に入った。妻のミヤズ姫は
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都からヤマトタケ君を送って、父のムラジの
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家で帰りを待っていた。この時、君はこの家で
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ひと月ほど過ごされた。君が言われた。
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「酒折の宮は昔の
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ハラの宮で、今なお続いている。
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我は、ここに同じ宮を造って姫と
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楽しく暮らしたいと願っている」。ムラジが申し上げた。
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「我が酒折の宮に行って、宮の造りを描き写して参りましょう」
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君は承知した。ムラジは酒折の宮に行き
【ヱヱス】
「ヱヱ」の語義がはっきりしないが、文脈から肯定・承知を表す時に発する語と解釈した。
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宮を詳しく
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絵図に描き写し報告した。
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ヤマトタケ君は伊吹山にまだ服わぬ者が
【アラフルカミ】
原文と読み比べて分かるようにここからはかなりの意訳になっている。「アラフルカミ」はヤマト朝に従わない集団であると考えた。ヤマト朝に従わない者といっても、東西の敵を従わせたヤマトタケは、さほどの者とも考えず、丸腰で説得に行ったのではないか。
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いると聞いて、剣をはずして置いたまま
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軽く説得できると考え、彼らが籠るところに
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幣も持たずに行った。歩いて行くと間もなく
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伊吹山への道に何人もの者がたむろして
【ヲオロチナシテ ヨコタワル…】
これまでにも、悪い者がたむろしている様子を「オロチ」に例えてあったように、その集団の者がたむろしていたが、ヤマトタケはそれが一味だとは気付かなかったと解釈した。
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道をふさいでいた。首領がいるとは気付かず
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ヤマトタケは彼らに言った。
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「これ、汝らは首領の
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手下であろう。汝らを説得するには
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及ばない」とたむろしている者たちを押し分けて行った。
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山路を行くと、突然、何本もの矢が飛んできた。
【ツララフラシテ】
「ツララ」の形状を考えれば、それが矢であることは想像に難くない。わずかな傷でもヤマトタケはついに命を落とすことになった。毒でも塗ってあったのだろうか。熊襲や蝦夷を討伐したヤマトタケが名もない反逆者の手で命を落とすことになったのを直接的に書くことは避けて、「カミ」の仕業としたのではないか。
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矢が足にあたり、目の前が暗くなった。ヤマトタケはそれを何とか凌いで
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必死に歩いたが、わずかに進むだけで、
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気が遠くなりそうだった。燃えるように
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身体が熱くなり、湧き水で体を冷やした。
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体を冷ました湧き水は後に「サメガヰ」と言われた。足の痛みを
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強く感じて、尾張に帰ったが
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妻のミヤズ姫の家には入らないで
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伊勢への道を行った。オヅの一本松には、
【オヅノヒトマツ】
尾張から伊勢路に入り、纏向の宮に戻る経路から考えると、三重県桑名郡多度にある尾津神社辺りか。
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昔ヤマトタケがホツマの国に下った際
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食事をした時、腰からはずして置いた剣を
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松の根に置き忘れたが、その剣は
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そのままあった。そこで松を誉めて歌を詠んだ。
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「剣を置き忘れたのに、そのままに迎えてくれた
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一本松よ、ああ我を待っていてくれたのだ。
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もしお前が人ならば、衣を着せてやるものを。
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太刀を佩かせてやるものを」。
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多分に慰められて、また歩いて行ったが
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足が痛み、三重に曲がったかと思われるほど痛んだ。
【ミヱニマガレバ】
現実に足が三重に曲がることはないので、それほどに痛み、足が伸ばせなくなったということだろう。「ミヱ」が三重郡の由来と伝えられている。
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そこは後に三重村と呼ばれた。杖をついて坂を
【ツヱツキザカ】
四日市市采女町に「杖突坂」があり、そこのことだと伝えられている。
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やっと越え、能褒野についたが痛みが
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ひどいので、連れてきた蝦夷の五人を
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宇治に行かせ、カシマ命の
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従者にした。キビタケヒコを
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都に上らせて、父に伝えようと
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文をしたためた。「ハナヒコが申し上げます。