ホツマツタヱ 全行現代語対訳

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40-053

我は昔、父君の命を受けて

40-054

ホツマを討ちに行きました。父君の恩恵と

40-055

威厳とにより、刃向かった蝦夷達も

40-056

従い、ことごとく平定して

40-057

今ここに帰ってきましたが、我の命は

40-058

落ちる夕日のように先がなくなりました。請い願わくは

40-059

いつの日か御報告を申し上げたいのですが

40-060

野に伏して誰に話すことができるでしょうか。

40-061

無念なことは父君にお会いできないことです。

40-062

これも天の定めなのでしょうか」。

40-063

文を書き終えて、ヤマトタケ君が言った。「我は

40-064

東の国も西の国も平定して、使命をやり遂げたが、自分の命を

40-065

滅ぼしてしまった。みなを休ませる

40-066

日もなかった」と、ナツカハギに

40-067

花降りを全て分け与えさせた。

40-068

辞世の歌を詠まれて、最早熱田の神と

【アツタノカミ】 本文011でヤマトタケは、尾張に宮を造り姫と暮らしたいと思った。本文192で、ヤマトタケの死後、アイチダに宮ができた。そこが今の熱田神宮と言われている。

40-069

なられる覚悟で、清めの沐浴をし、衣を代えて

40-070

南に向き、辞世の

【ヒトミイナム】 「人身辞む」、死去すること。

40-071

歌を詠まれた。

40-072

熱田宣

40-073

「この世に別れを告げるときがきた。我は東国と西国の勅使となり、

40-074

父君母君に十分に仕えられなかった。

40-075

我はサコクシロの八神の御手によって

40-076

定めを受けて生まれて、充実した一生を送ることができた。

40-077

今、サコクシロに帰るにあたって、神々に誘われ、天への道を辿る

【チドル】 「チ」は「道」「ドル」は「辿る」とし、天へ昇って行くことと解釈した。

40-078

懸橋を上って行く。霞の彼方で

40-079

楽しく過ごし、雲の上で待っていると

40-080

人々に伝えよう」。

40-081

繰り返し詠いながら目を閉じ、

40-082

静かに息を引き取った。最早どうしようもなく、供の者は

40-083

喪祀りを行った。歌は尾張のミヤズ姫の元へ届けられた。

40-084

キビタケヒコは日代の宮に上り、ヤマトタケ君の遺書を奉げると

40-085

皇は居ても立ってもいられず、

40-086

何を食しても味はなく、一日中嘆いて

40-087

言われた。「昔熊襲が

40-088

叛いた時、コウスはまだ総角の身でありながら

40-089

鎮めることができた。いつも傍にいて

40-090

吾を助けてくれたのに、ホツマを討たせる

40-091

者がいなくて、忍びなかったが敵地に

40-092

行かせたのだ。明け暮れコウスの帰る

40-093

日を待っていたのに、ああ、これは何の

40-094

災いなのだろうか。あまりにも思いがけなく

40-095

天に召されてしまった。これから誰と政を

【アカラメス】 「アカラメ」は、にわかに姿が見えなくなること。(大辞林)

40-096

治めていったらいいのだろう」。そして諸臣に詔を下し

40-097

葬儀を行った。その時遺骸が

40-098

イトリとなって飛び立った。皇が諸臣と

【イトリ】 ４綾本文159に「イトリノテグルマ」とあり、「イトリ」のまま訳したが、「白い大きな鳥」と解釈した。本文102に「シライトリ」とあるので白いということは間違いないが、「白鳥」と断定できないので、ここでも「イトリ」とした。

40-099

御陵の柩の中を見ると、

40-100

冠と笏と御衣裳とが

40-101

そこに残っていて、虚しくも柩は空であった。

40-102

白イトリを追って訪ねて行くと、

40-103

大和の国の琴弾原に

【コトヒキハラ】 御所市冨田に琴弾原白鳥陵がある。

40-104

尾羽が四枚落ちていて、河内の

40-105

古市にまた羽が四枚落ちていた。

【フルイチ】 大阪府羽曳野市の古市古墳群にある軽里大塚古墳がヤマトタケの陵とされている。