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40-106 ソコココニ ナスミサザキノ
それらの場所に御陵を造ったが
40-107 シラトリモ ツヒニクモイニ
白イトリはついに雲の彼方に
40-108 トビアガル オバハアタカモ
飛び去ったままであった。尾羽は恰も
カミノヨノ ヨハキシゾコレ
神の代の世掃花のようであった。
【ヨハキシ】 10綾解釈ノート050参照。
40-110 キツモミナ タセバマカレル
東国も西国も全て鎮めて亡くなったのは
40-111 アメノリゾ コノキミヒシロ
天の定めなのであろう。コウスは、日代の宮の
40-112 スメラギノ フノミコハハハ
皇の二人目の皇子であった。母の
40-113 イナヒヒメ シハスノモチニ
イナヒ姫が十二月の望の日に
40-114 モチツキテ モチハナナシテ
餅を搗いて、餅花を作っていた時
40-115 フタゴウム ヲウスモチヒト
双子をお産みになった。兄のヲウス、諱モチヒト、
40-116 トハコウス ハナヒコモコレ
弟のコウス、諱ハナヒコという名は、まさに
40-117 アメノナゾ ヒトナルノチニ
天より授かった名前である。成人した後に
40-118 クマソマタ ソムケバコウス
熊襲がまた反乱を起こしたので、コウスは
40-119 ヒトリユキ オトメスガタト
一人で熊襲を鎮めに行き、乙女の姿と
40-120 ナリイリテ ハダノツルギデ
なって敵の中に入り、身に隠し持った剣で
40-121 ムネオサス タケルシバシト
タケルの胸を刺した。タケルは、「待ちたまえ」と、
40-122 トドメイフ ナンヂハタレゾ
コウスを留めて言った。「汝は何者なのだ」
40-123 ワレハコレ イマスメラキノ
「我は今の皇の
40-124 コノコウス タケルガイワク
子のコウスだ」と答えると、タケルが言った。
40-125 ヤマトニハ ワレニタケタハ
「ヤマトには、我より勝る者は
40-126 ミコバカリ カレミナツケン
皇子だけだ。故に御名を差し上げたいが
40-127 キキマスヤ ユルセバササグ
聞き入れてくださるか」。コウスが承知すると、タケルは
40-128 ヤマトダケ ミコナオカエテ
ヤマトタケと名を奉げた。それから皇子はヤマトタケと名を変えて
40-129 ウチヲサム アメノホマレヤ
熊襲を討伐し平定した。これは天下の誉れである。
40-130 ヤマトダケ イマスノマコノ
ヤマトタケとイマスの孫の
40-131 タンヤガメ フタヂイリヒメ
タンヤの娘のフタヂイリ姫との間に
40-132 ウムミコハ イナヨリワケノ
生まれた皇子はイナヨリワケ、
40-133 タケヒコト タリナカヒコノ
諱タケヒコとタリナカヒコ、
40-134 カシキネト ヌノオシヒメト
諱カシキネとヌノオシ姫と
40-135 ワカタケゾ キビタケヒコガ
ワカタケである。キビタケヒコの
アナトタケ ウチツマニウム
娘のアナトタケ姫はウチ妻で
【ウチツマ】 ヤマトタケは君になっていないので、妃ではなく妻としたのであろうか。
40-137 タケミコト トキワケトナリ
タケミコとトキワケを産んだ。
40-138 オシヤマガ オトタチハナオ
オシヤマの娘のオトタチハナ姫を
40-139 スケツマニ ワカタケヒコト
スケ妻として、ワカタケヒコと
40-140 イナリワケ アシカミカマミ
イナリワケ、アシカミカマミ、
40-141 タケコガヒ イキナガタワケ
タケコガヒ、イキナガタワケ、
40-142 ヰソメヒコ イガヒコラウム
ヰソメヒコ、イガヒコ達を産んだ。
40-143 オハリガメ ミヤヅヒメマタ
オハリの娘のミヤヅ姫は
40-144 ノチノツマ タケタトサエキ
その後の妻で、タケタとサエキの
40-145 フタリウム ソヨヲヒメアリ
二人を産んだ。全てで十四人の皇子と一人の姫である。
サキノツマ ミナカレイマハ
その前の妻はみな亡くなり、今は
【サキノツマミナカレ…】 ここからは、この綾の初めのヤマトタケが尾張に着いた場面になる。
40-147 ミヤヅヒメ ヒトリアワント
ミヤヅ姫一人だけとなった。ヤマトタケが姫に逢おうと
ハラミヨリ ココロホソクモ
ハラミより、不安に耐えて
【ココロホソクモ…】 39綾本文380以降の木曽路の山の中の出来事を指している。
40-149 カケハシオ シノギノボレバ
懸橋をやっとのことで渡り、尾張の宮に帰ったときのことである。
40-150 ミヤヅヒメ ネマキノママニ
ミヤヅ姫は寝間着のままで
40-151 イデムカフ ヒメノモスソニ
出て迎えた。姫の裳裾に
40-152 ツキヲケノ シミタルオミテ
つきのものが染みているのを見て
40-153 ヤマトタケ ミシカウタシテ
ヤマトタケ君はみじか歌にして伝えた。
ヒサカタノ アマノカグヤマ
「久しぶりに、ハラミの宮から
【ヒサカタノ…】 ヤマトタケとミヤヅ姫の歌のやり取りは、ヤマトタケが見てしまった姫の裳裾の経血の汚れを、会えなかった月日の長さに掛けてさりげなく伝える愛情と、「ウヘナウヘナ」と字余りにし、思いを強調してそれに応えるミヤヅ姫の君を慕う気持ちが見事に美しく歌われている。「ヒサカタノ」や「タカヒカル」は後に枕詞として読まれるようになったが、ここでは意味を持った言葉だと私は考える。
トガモヨリ サワタリクルヒ
遠路はるばる訪ねてきたこの日に
【トガモ】 「ト」は遠い、「ガ」は「~の」、「モ」は「四方(ヨモ)」などと使う「方」と解釈し、「遠くの方」とし「遠路」と訳した。
【サワタリクル】 「サ」は接頭語。「渡ってくる」という訳になるが「はるばる訪ねる」と訳した。
40-156 ホソタハヤ カヒナオマカン
手弱女を抱きたいと
40-157 トハスレト サネントアレバ
思ったが、一緒に寝ることができればとも
40-158 オモエドモ ナガキケルソノ
思ったが、汝の着ている裳裾も
40-159 ツキタチニケリ      
月日が経ってしまったね」。