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トキニキミ ヲコヌシカミト
それを聞いて、ニニキネは、大物主にヲコヌシカミと
【ヲコヌシカミ】 この大物主は2代目大物主クシヒコ。この度の業績により賜った名前の「ヲコヌシ」の「ヲ」に、このホツマ文字が使われているので「オオクンヌシ」より格調が高いのだろう。「ヲコヌシ」を「大国主」としたのは記紀で、ここでの「ヲコヌシ」は大国主ではない。また「ヲコヌシ柱」が「大黒柱」と訳されることが多いが、これも、「ヲコヌシ」が「大国主」とされ、「大国主」が仏教の大黒天と混同されて「大黒柱」となったのだろうか。「オコヌシ柱」が今の大黒柱かどうかも不明。
21-185 ナオタマフ ハシラナモコレ
褒め名を賜った。「ヲコヌシ柱」という名の由来はこれである。
21-186 ミヤツクリ フキイラカマテ
新治の宮造りは、屋根を葺くまでの
21-187 ミナナリテ ミマコニニキネ
すべてが出来上がった。御孫ニニキネが
21-188 ツクバヨリ ウツリマスヒハ
筑波より遷宮される日は
21-189 ヲコヌシノ フソヰモノノベ
ヲコヌシの二十五人の物部達が
21-190 カシハナス カスガモロトモ
祝い膳を用意した。ヲコヌシはカスガと共に
21-191 ノリソヒテ ミマコノミユキ
馬に乗って、ニニキネの御幸を
21-192 マモリユク コノヒアスカノ
守って行った。この日アスカの君は
21-193 ミヤシロド フトタマオシテ
自分の代理としてフトタマを
21-194 イワワシム キミヨオコメテ
遷宮の祝いに出した。まだ夜が明けないうちに、ニニキネが
トサトキテ ニハリワタリハ
長い道のりを来たとき、新治の宮の辺りが
【トサト】 「十里」だが、距離は今に伝わる「里」(約4キロメートル)と同じかどうかはわからない。ここでは距離を言っているのではなく「長い道のり」または「10村程の村里」を表しているのであろう。
【ニハリワタリハ カキクモリ】 「カキクモリ」は天気のことではなく、様子がおかしくなること。
カキクモリ ハタタカミナリ
騒々しくなり、ひどい騒ぎが起きて
【ハタタカミナリ】 騒ぎが起きている状態。「カミナリ」はこの後本文205に出てくる「ウツヲカミ」を暗に示している。
21-197 カキヤブル ヲコヌシイワク
宮の垣を壊した。ヲコヌシは言った。
21-198 ワタマシオ タミモイハフニ
「君が宮遷しされるのを民も祝っているのに
21-199 ナサケナト ハハヤオイレバ
情けないことだ」と、羽々矢を射って
シナドメニ フキハラフトキ
配下の者に鎮めさせた。
【シナドメ】 「シナドベ」のことであろう。「シナドベ」は風の神のことだが、ここではヲコヌシの配下の物部(兵)。
チオムカヒ トモニイリマス
臣たちが道々出迎えて、ニニキネは供の者と一緒に宮に入った。
【チオムカイ】 「チ」は道。「チオ」は「道々来るのを」と解釈した。「ムカイ」は「サカムカイ」と同じく、迎えること。
21-202 ミアエスミ ヲコヌシカキノ
祝いの宴が終った後に、ヲコヌシは垣が
21-203 ヤレオツグ ミコノタマフハ
壊されたことをニニキネに伝えた。ニニキネが言われた。
21-204 ユミノコト アレドノチタメ
「弓で鎮めたが、後々のことを考えると
21-205 ステラレズ カスガニノレバ
放っておくこともできない」とカスガに話されると、
フトマニノ アコケハシワザ
フトマニで占い、「ア・コケ」となり、しかけた者は
【アコケ】 フトマニの9番目に「アコケ」の項があり、「アノコケハ ヨコヤシルヤモ ハサラナセ アコケクルマノ メグリアラネハ」と書かれている。吾郷清彦氏は著書「全訳ホツマツタエ」の中の「対訳・神璽基兆太占伝(カンオシデモトウラツタエ)」で、吉備大臣真備が「詠太占和歌」として四行漢詩の形の訳註を付けたものを次のように読み下している。「天変は智あると雖も、功ならず。霹靂(ハタタガミ)新宅を挫く、当に転ずべし。病難は方遠を以って、之を転ずること、若(マサ)に天車転行して、祥(サイワイ)在るが如し。」その注釈に「霹靂新宅を挫く。これはニニギネノ尊が新治宮を造営されて、遷御の折霹靂神が垣を破った故事を指す。」「ヨコヤは世嗣御子の社殿の意、シルヤは政を治め知る庁舎の義。」などとある。ここで注目すべきは、霹靂(ヘキレキ・雷、ウツヲガミ)がニニキネの宮の垣を破ったという故事を指すということ。この出来事があったときフトマニで占ったら「アコケ」と出たのに、この出来事を元にした解釈とはどういうことだ? そこで訳者は次のように解釈してみた。「ヨコヤ」は漢字で表せば「横屋」とでもなろうか、主たる建物のそばにある建物と解釈した。「シルヤ」は「領る屋」と読み、領らす建物、すなわちヨコヤの主が守っている建物、すなわち「社」と解釈した。「ハサラ」は「地更」と読み、その場所を改めることとしてみた。そうすると、宮の脇に住み、社を守っている「ウツヲ」や社をその場所から撤退させるという解釈が浮かんでくるように思う。
ウツヲガミ トキミコトノリ
ウツヲガミと読めた。そこでニニキネが言われた。
【ウツヲガミ】 この後を読み進めると、アマテルカミに仕えて、この地でウツロヰ神を祭っている者と考えられる。
ウツヲカミ ヤシロトザシテ
「ウツヲの社を閉ざして
【ヤシロトザシテ】 ウツヲがウツロヰ神を祭っている社。
21-209 アメニツグ アノミコトノリ
アマテルカミに申し上げよう」。それを聞いたアマテルカミは言われた。
21-210 ナサケナキ ヤシロヒシゲト
「残念なことだ。ウツヲの社を壊してしまいなさい」。
21-211 トキミマコ シルシササゲテ
しかし、ニニキネは願いの文を差し出して
ノチオコフ アメハタアシク
後の始末を自分にさせて欲しいと願ったが、アマテルカミは大変立腹し、
【ノチヲコウ】 この後の話の内容から「後始末」とした。
21-213 ユルサレズ マタネガワクハ
許さなかった。ニニキネは再び願った。
21-214 ウツヲカミ タトヒヒトタビ
「ウツヲは、たまたまこの度
21-215 コトミタレ サラニアランヤ
暴れましたが、これ以上することはないでしょう。
21-216 オオナムチ ヒトタビオチテ
オオナムチは、ある時国を追われて
21-217 ヒスミキミ ソノコモノヌシ
ヒスミの君となりましたが、その子の大物主は
21-218 マメオナス コレニハニズモ
大変忠実に働きました。これには及ばないでしょうが、
21-219 ウツヲマタ ノチコトタテン
ウツヲもまた後で手柄をたてるかもしれません。
21-220 ユルシタマエヤ      
どうか許してやってください」。
21-221 ヲヲンカミ ユルスミコトハ
アマテルカミは、次のように言って許した。
ヱトノスエ ヤナヰカクロヒ
「ヱトの巡りの末は、八・七・五の神の守りから漏れる日ができる。
【ヱトノスエ ヤナヰカクロヒ】 「ヤナヰ」を「八・七・五神(暦の神)」としたのは次の理由による。本文023以降に「ヤカシワアモト」と「ヰクラノヰ」、「トシノリタマメムワタノナ」とあり、ここでの「ヤ」はアモトカミ(トホカミヱヒタメ)の8神を意味し、「ナ」はトシノリタマメカミとムワタ(アミヤシナウ)を合わせた7神を意味し、「ヰ」はキツヲサネの5神を意味している。この神たちを合わせて「八・七・五(ヤナイ)神」と考えた。
アモトカミ8神の中の「ヱ・ト」2神と「アミヤシナウ」の6神と「キツヲサネ」の5神とを組み合わせて60通りの「ヱト」の組み合わせができる(これについては22綾本文025にも出てくる)。さらに、ミカサフミの「ナメコトノアヤ」に「ヒトセコレ エトニハンベル ミソノカミ ヒヒニカワリテ ムソカモル ムワノナメコト」とあり、「ムワ」は六輪(環)と解釈して「6巡り」となるので、「ヱト守神」は6巡り(360日)を単位として順に日々人々の暮らしを守ると考えたのだろう。すなわち「ヱト」は今でいうカレンダーではなくて、信仰としての日々の守り神だったと考える。
また、1綾本文131に「アメノメクリノ ミムソヰヱ ヨツミツワケテ ミソヒナリ ツキハオクレテ ミソタラズ」とあり、この時代にすでに太陽の周期がほぼ365日であることが分かっていたと思われる。太陽の1巡りの365日は農業を中心とした人々にとって生活の一周期でもあったので、ヱトの6巡りより5日多くなる。その五日間を「カクロヒ」(隠れた日、ヱトの守から漏れた日)としてウツヲに守らせると考えたのであろう。
実際にはヱト守神はその5日間もキアヱ、キアト・・・と次の6巡りが始まるので、ウツヲに守らせる日を、次のミカサフミの「ナメコトノアヤ」にある「ウツロヰノ トシコエセマエ(12月29日) オオミソカ(同30日) ハツムカソヨカ(1月6日、14日) サノミソカ(5月30日) スベヒトセモル」とある日に割り振ったのではないか。なぜその日なのかは分からないが、これは概念上の話のことなので、このなんらかの意味のある5日間をウツヲが守ったこととしたのだろうか。これらはこの当時の科学と信仰なのだろうが極めて難解である。もっと納得できる解釈はできないものだろうか。
ウツロモリ キネノヒトキオ
その漏れる日をウツロヰ神に守らせ、東北の一本の樹を
【ヒトキ】 社のそばの1本の樹をウツロヰ神の憑代としたと解釈したが、このように書くと説明的過ぎるので「1本の樹を社にせよ」とした。
21-224 ヰヤシロニセヨ      
社にせよ」。
21-225 ヲヲコヌシ ミマコニモフス
ヲコヌシがニニキネに申し上げた。
21-226 ワガヲヤノ ヒスミノキミハ
「わが親がヒスミの君となったことを
21-227 ヨロコバシ ウツヲモカミノ
我は喜んでいます。ウツヲも君に仕えることができれば
21-228 ヨロコビト コエバミコトゾ
喜ばしいことです」と願うと、ニニキネは言われた。
ナルカミノ ヌシキネマモリ
「騒ぎを起こしたウツヲに、宮の東北の方を守らせ
【ナルカミ】 ハタタカミナリ、ウツヲと同じ。
ウツロヰノ ヲマサキミトゾ
ウツロヰのヲマサキミと名を与えよう」。
【ウツロヰノ ヲマサキミ】 「ウツロヰ」は22本文031に出てくるヤマサ神の一神。「ヲマサキミ」はウツロヰ神を祭る者のことだが、ふさわしい訳語がないので原文のままで役名とした。