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23-249 カンガミゾ コレツツシメヨ
鑑みて、十分に慎まなければならぬのだ。
23-250 ムカシナル アオヒトクサモ
昔に比べると民の数も
23-251 ソニフヱテ ミチオフレテモ
十倍に増え、人としてのあり方を教えても、
23-252 トトキカネ コスヱヤブルル
隅々までは十分に行き渡らず、子孫が衰亡していく
23-253 モトイカヤ トキホコフラハ
原因となっているようだ。鋭い矛を以て治めれば
23-254 スミヤカニ トホランモノト
速やかに教えが行き渡るだろうと、
23-255 ツルギナス ソノトキフレテ
剣を造ったのである。その時皆に触れを出し
23-256 カネリトオ ソタリニツルギ
刀鍛冶十人に剣を
23-257 ツクラシム ナカニヒトリハ
造らせた。その中の一人は
23-258 ヒイデタリ ヤイバスルドク
秀でており、刃が鋭くて
23-259 ミヅオワル コノカネリトニ
水を斬りわけることができるほどであった。この刀鍛冶に
23-260 ミコトノリ ナンヂガヤイバ
吾が言った。『汝が造る剣の刃は
23-261 ヨクトキゾ シカレドマテノ
大変鋭い。しかし刃を造る時の左右の目の
23-262 イキカレオ シラズヲシエン
〈生き〉と〈枯れ〉を知らないようなので教えよう。
シカトキケ タノメハハルノ
しかと聞け。タ(左)の目は、春(タ)の目であり、
【タノメハハルノ】 「タ」は左。左の臣を「タの臣」、右の臣を「カの臣」という。「タ」がフトマニ図の左にあることから「左」を表すようになったようだ。季節にもあてはめられ、「タ」が春、「ト」が夏、「カ」が秋、「ヱ」が冬を表す。
23-264 イキルコロ タノメオイレテ
春は草木が生きる頃なので、左の目で見て
23-265 ネルツルギ イキミニチカク
造る剣は、「生き」の者に近づき、
23-266 カレウトシ モシアヤマルヤ
「枯れ」の者に気付かない。万が一にも、正邪の見極めを間違えることを
23-267 オソルナリ カノメハアキノ
吾は恐れるのだ。カ(右)の目は秋(カ)の目であり、秋は
23-268 カラスコロ カノメオイレテ
草木が枯れる頃なので、右の目で見て
23-269 ネルツルギ カレミニチカク
造る剣は〈枯れ〉の者に近づき、
23-270 イキウトシ ツミアルモノオ
〈生き〉の者に関わりを持たないのだ。罪のある者を
23-271 カレトイフ ナキハイキナリ
〈枯れ〉と言い、罪のない者を〈生き〉と言うのだ。
23-272 カノツルギ カレミオコノミ
このように右の目で見て造った剣は、罪のある者を好み
23-273 イキオソル コレゾヲサムル
罪のない者を恐れるのだ。これこそが天下を治める
23-274 タカラモノ コレウツベシト
宝物なのだ。こういう剣を造るように』と
23-275 ノタマエバ オソレテモモカ
話すと、刀鍛冶は恐れ入って百日間
23-276 モノイミシ ミギメヒトツデ
物忌みをして、右目一つで
23-277 ネルツルギ ヤフリアクレハ
剣を造った。八振りの剣を持ってきたので、
23-278 ミコトノリ イマコノツルギ
吾が言った。『今、ここにある剣は
23-279 ムベニヨシ ワガミココロニ
大変素晴らしい。吾の思いに
23-280 ヨクカナイ ミヨノヲサマル
よく適い、この世の中がよく治まる
23-281 タカラモノ ナモヤヱガキノ
宝物だ。名を八重垣の
23-282 ツルギトゾ カネリオホメテ
剣と名付けよう』と刀鍛冶を褒めて
23-283 タマフナハ アマメヒトツノ
褒め名を与え、刀鍛冶はアマメヒトツノ
23-284 カミトナル ノチニハタレガ
カミとなった。その後ハタレが
23-285 ミタルトキ カナサキオヨビ
騒動を起こした時、カナサキと
ムマサカミ ツルギタマワリ
六名の臣に剣を与え
【ムマサカミ】 8綾のハタレ退治で活躍したカナサキの他、フツヌシ、タケミカツチ、ツワモノヌシ、カダマロ、クマノクスヒ、イフキドヌシの6人の臣。
23-287 ハタレウチ ヤタミヲサムル
ハタレを退治し、国中の民を治めた。
23-288 イキオヒモ カレハカラシテ
刀の威力は罪ある者を退治し
23-289 イキオヱル タトエバハヤシ
罪を犯すことのない者を増やすのだ。例えば林を
23-290 キリヒラキ タクニコタマノ
切り開いて燃やすと木の霊が
23-291 ナキコトク キルベキトガハ
無くなると同じように、斬るべき罪は
23-292 キリツクス オモイノコラジ
斬り尽くせば、悪い心は残らない。
23-293 ツルギトハ ツハキノヨハヒ
剣という名の『つ』は木の寿命が
23-294 アニツキテ カレルアノツゾ
尽きて枯れること、すなわち天寿(ア)が尽きるの『つ』である。
23-295 ルハシバノ カワケバモユル
『る』は、柴が乾いて燃える様子の
ルギノホゾ ギハキノカレテ
『ル(霊)ギ』の炎を言い、『ぎ』は木が枯れたもので、
【ルギノホ】 「ル」については、4綾本文142で「ルハヒノチタマ」と本文で説明している。すなわち「ル」は「霊力、人知を超えた偉大な力」
23-297 オモヒナシ カレニツルギト
この世に思いを残さないということである。故に『剣』と
23-298 ナツクナリ モシタミオゴリ
名付けたのである。もしも、民が奢り
23-299 ミノホドモ ワスレテツイニ
身の程も忘れると、ついに
23-300 ツルギウク ウケサセジトテ
剣の罰を受けることになるが、そうならないようにするために
ミノカキヨ モシモツカサノ
身を慎む垣根となる剣なのだ。もしも、民の上に立つ者が
【ツカサ】 役職名とも取れるが、限定されたものではなく、役人一般を言ったのであろう。
23-302 オゴリニテ タミオカラセハ
奢って民を苦しめれば
23-303 ツミオオシ ヨコベニサラニ
罪は大きい。ヨコベになお詳しく
23-304 アラタメテ ソノタミイカス
調べさせて、その民を助ける。