先頭の番号が青い行は、クリックすると解釈ノートが見られます。
対訳ページの使い方の詳細はこちらのページをご覧ください。
27-205 ナンヂハト イエバウツロヰ
汝はいったい誰なのか」と言うと、ウツロヰは
27-206 トビアガリ ナルカミシテゾ
跳び上がって驚き、大声を出して
27-207 サリニケル アルヒマタイデ
逃げて行った。ある日また出かけて
ミソギナス シラハノヤキテ
禊ぎをした。そこに姫の意中の人が来て
【シラハノヤ キテノキニサス】 白羽の矢が軒に刺さったということだが、これは暗喩。「白羽の矢」は多くの中から特に選ばれた者、すなわち姫の意中の人。「ノキニサス」は二人が結ばれたことを暗示している。
27-209 ノキニサス アルジノオケノ
二人は結ばれた。姫の経水が
27-210 トトマリテ オモハスヲノコ
止まり、図らずも男の子が
27-211 ウミソダツ ミツナルトシニ
生まれた。すくすく育って三歳の時に
27-212 ヤオサシテ チチトイウトキ
訪ねてきた男を「父」と慕ったが、
ヤハノボル ワケイカツチノ
男は宮に帰っていった。この子の父親はワケイカツチの
【ヤハノボル】 「ノボル」は「天に上る」か「宮へ上る」のどちらかだが、姫の意中の人なのだから、当然宮に上ったのであろう。宮人である意中の人とは誰であろうか。私は、本文234のワカヤマクイの言葉がカギを握っていると考える。タマヨリ姫についてこれほど詳しくわかっていて、二人の関係が密であることをうかがわせることと、本文239で、誰の言うことも聞かなかったタマヨリ姫がワカヤマクイの話に従ったことから「シラハノヤ」はワカヤマクイではないかと考える。
27-214 カミナリト ヨニナリワタル
神だと噂が世間に広まった。
27-215 ヒメミコオ モロカミコエド
タマヨリ姫と御子を多くの臣が迎え入れたいと申し入れたが
27-216 ウナツカズ タカノノモリニ
姫は受け入れなかった。そしてタカノの森に
27-217 カクレスム ワケイカツチノ
ひっそりと住み、そこにワケイカツチ神の
27-218 ホコラナシ ツネニミカゲオ
祠を造って、いつも神を
27-219 マツルナリ ミフレニヨリテ
祭っていた。乳母を求める触れを聞いた臣が
27-220 モフサクハ ヒヱノフモトニ
申し上げた。「ヒヱの麓に
27-221 ヒメアリテ チチヨキユエニ
姫が住んでいます。乳がよく出るので
27-222 タミノコノ ヤスルニチチオ
民の痩せている子に乳を
27-223 タマワレバ タチマチコユル
飲ませると、たちまち太ります。
コレムカシ カミノコナレド
この方は昔、神の子と言われていましたが
【コレムカシ カミノコナレド】 本文191にある、イソヨリ姫がワケイカツチ神から玉をいただいた夢を見て生まれたのがタマヨリ姫。それを神の子と言った。
27-225 カクレスム モリニヰイロノ
今はひっそりと住んでいます。その森は五色の
クモオコル イツモヂモリト
雲が立っているのでイツモヂ森と
【イツモヂモリ】 「イ」は「五(色)」、「ツ」は「の」、「モ」は「雲」、「ヂ」は「乳」ではないか。
27-227 ナヅクナリ モロカミコエト
名付けています。多くの臣が姫を迎えようと申し入れても
27-228 マイラネバ サオシカナサレ
来ない方ですので、お呼びになるのなら勅使をたてるのがよいでしょう。
27-229 シカルベシ トキニイワクラ
そうすれば宮に上るでしょう」すると、イワクラが
27-230 ウカガヒテ ツカイオヤレト
その話を聞いて勅使を出したが
27-231 キタラネバ ミツカラユキテ
来なかったので、自ら行って
27-232 マネケトモ ウナヅカヌヨシ
招いても首を縦に振らなかったと
27-233 カエコトス ワカヤマクイガ
君に報告した。それを聞いてワカヤマクイが
27-234 モフサクハ ヲシカドナラデ
言った。「勅使が行っても
27-235 コヌユエハ ワケツチカミオ
来ないわけは、姫がワケイカツチ神を
27-236 ツネマツル メセバマツリノ
常に祭っているので、宮に来れば祭りが
27-237 カクルユエナリ      
できなくなるからです」
27-238 ミコトノリ ヤマクイオシテ
君がワカヤマクイに命じて
27-239 メストキニ ハハコノボレバ
タマヨリ姫を召すと、母子共に宮に上った。
27-240 ミタマヒテ ウヂナオトエバ
君がタマヨリ姫に会って、氏と名を聞くと
27-241 ヒメコタエ ヲヤノタケスミ
姫が答えた。「親のタケスミと
27-242 イソヨリガ ナヅクタマヨリ
イソヨリが名付けたタマヨリと申します。
27-243 ハデガマコ コハチチモナク
ハデスミの孫です。我の子は父もなく
27-244 カミナリゾ チチガナケレバ
神の子なのです。父がいないので
27-245 イミナセス ヰツモノミコト
諱は付けませんでした。イツモの御子と
27-246 ヒトガヨブ コトバモクワシ
人は呼んでいました」姫の言葉は麗しく
27-247 スキトホル タマノスカタノ
澄んでいた。美しい姿は
27-248 カカヤケバ ミコトノリシテ
輝いているようだったので、妃として迎える詔をして
27-249 ウチツボネ ヰツセヒタセバ
内局にした。タマヨリ姫はヰツセを乳で育てた。
27-250 ミコノナモ ミケイリミコゾ
イツモの御子の名もミケイリ皇子となった。
27-251 ウムミコハ イナイイキミゾ
二人の間に生まれた皇子はイナイイ君といった。
27-252 ミキサキト ナリテウムミコ
タマヨリ姫が后となってから産んだ皇子が
27-253 カンヤマト イハワレヒコノ
カンヤマトイハワレヒコ尊である。
27-254 ミコトナリ トキニタネコガ
その時にタネコが
タケヒトト イミナチリバメ
「タケヒト」と諱を書いて
【イミナチリバメ】 「チリバメル」は刻み付けること。誕生を祝い、錦に諱を織り込んだ幡ではないだろうか。現在でも子どもに名を付ける時、紙に「命名○○」としているのと同じようなことか。
27-256 タテマツル アマキミミコニ
差し上げた。君は皇子に
27-257 ミコトノリ ツズノミウタニ
ツヅ歌で詔された。
コレヲシテ トヨヘルハタノ
「このタケヒトという諱を、トの教えの政が豊かに末永く
【トヨヘルハタノ ツヅネニゾナセ】 「トヨヘル」の「ト」はトの教えを表す文字。トの教えの世が経る、すなわち長く続くこと。「トヨ」に豊かという意味も持たせて訳した。「ハタ」は「旗、幡」と読み、古来、朝廷で儀式・祭礼の具として用いられたように、地位や権力の象徴と考え、訳では「徴」とした。「ツヅネ」は続く元。