先頭の番号が青い行は、クリックすると解釈ノートが見られます。
対訳ページの使い方の詳細はこちらのページをご覧ください。
28-257 ムベナリト アススニキワメ
「それがいい」と同意した。暦の名をアススと決めて
28-258 フソヒホノ キナヱノハルハ
二十一穂のキナエの春(一月)は
28-259 アメフタヱ アススコヨミト
アメフタエがマサカキ暦をアスス暦と
28-260 ナオカエテ アヅサニホリテ
名を変え、梓の木に彫って
28-261 タテマツル アスズコヨミオ
タケヒト君に差し上げた。諸臣はアスス暦に
28-262 モロウケテ コノヨノワザオ
合わせて、世の中のすべての仕事を
28-263 カンガミル コヨミコレナリ
考え、行った。これがアスス暦の始まりである。
28-264 タナゴヒメ イフキトミヤニ
昔、タナゴ姫とイフキヌシ命の夫婦が宮で
28-265 ウムミコノ ヱハイヨツヒコ
産んだ御子の、長男はイヨツヒコで
28-266 トサツヒコ ウサツヒココレ
次男はトサツヒコである。三男のウサツヒコは、
28-267 ヲントモニ ユキテツクシノ
後に母のタナゴ姫と一緒に筑紫に行って
28-268 ウサニスム ハハモウサニテ
宇佐に住んだ。タナゴ姫は宇佐で
28-269 カミトナル イツクシマミヤ
亡くなり、後に厳島宮で
イトウカミ ヨキオシルナゾ
イトウ神となった。これは善いことを知っているという意味の名前である。
【イトウカミ】 「ヨキオシルナゾ」というのであるから「イトウ」は「厭う」の持つ良い面の「いたわる、かばう、大事にする」というような意味合いで、「母親を大切にする心を持った神」とでもなろうか。ここではタナゴ姫のこととして書いてあるが、後に「ミツヒメマツル」とあるので「イトウカミ」は三姫を言う。
28-271 オロチナル ハヂニミツカラ
かつて母親のハヤコ姫がオロチ(罪人)であったことを恥じて
サスラヒテ イトウオシレバ
三姫が方々をさすらって、母のために禊ぎをしていることを知った
【サスラヒテ イトウオシレバ】 三姫はタケコ姫、タキコ姫、タナゴ姫。3人の姫たちは母の非行を恥じ流離い、その母のために禊をした。オオナムチは母を大切にする姫に感銘したのだろうか。
28-273 オオナムチ ヒヒメオメトル
オオナムチが、長女のタケコ姫を妻とした。
コノシマツ ミツヒメマツル
御子のシマツウシは三姫とハヤコ姫を
【ミツヒメマツル ソトガハマ イトウヤスカタ】 「ソトガハマ」は青森市から外ヶ浜町に至る津軽半島の陸奥湾の古称。「イトウ」は「イトウカミ」の三姫。「ミツヒメマツル」とあるが、「ヤスカタ」は本文297に書かれているように母親のハヤコ姫で、実際に祭られたのは三姫とハヤコ姫。それが今の青森市安方の「善知鳥(ウトウ)神社」。
28-275 ソトガハマ イトウヤスカタ
外が浜にイトウヤスカタとして祭った。
カミノミケ ハムウトウアリ
祭られた神の供物を食べるウトウ(鳥)がいた。
【ウトウ】 この海に「ウトウ」という海鳥がいて、「善きを知る名」の「イトウ」と鳥の「ウトウ」が混同して「善知鳥神社」となったのだろうか。
コカシラノ オロチガハメバ
九頭の大蛇がウトウを食ったので
【コカシラノ オロチ】 九つの頭を持つ大蛇。後に書かれているように、ひっそりと死んでいるモチコ姫の怨念が蛇となって現れ、三姫の化身としてのウトウを狙ったとシマツウシは思った、と解釈した。
28-278 シマツウシ ハハキリフレバ
シマツウシが大蛇に斬りつけると、大蛇は
ニケイタリ コシノホラアナ
逃げて行った。シマツウシは大蛇が山のふもとの洞穴を
【コシノホラアナ】 「コシ」は広辞苑に「山の麓に近いところ」とあるので、「山のふもと」とした。また、モチコ姫の親のクラキネが祭られている立山が越の国であることを考えると、モチコ姫のタマはいったん生地に戻り、それから信濃に行ったというストーリーも考えられる。
ホリヌケテ シナノニテレハ
抜けて信濃に行ったと思ったので、
【シナノニテレバ】 シマツウシはモチコ姫が信濃の戸隠ですでに亡くなっているのを知っていたと考える。祭られることもなく、怨念が蛇になって現れたことに哀れを感じ、モチコ姫のタマは信濃に帰ったと思い、信濃に行ったのだろう。
28-281 コレヲツグ イセノトカクシ
信濃まで行って告げると、伊勢にいた戸隠が
28-282 ハセカエリ ナンチハオソル
急いで帰ってきた。戸隠はシマツウシに『汝がこんなに恐れるのは
28-283 コレイカン コタエテムカシ
何故ですか』と聞いたので、シマツウシが答えた。「昔
28-284 フタヲロチ ヒメニウマレテ
二匹の大蛇がモチコ姫とハヤコ姫に憑いて生まれてきました。
28-285 キミメセハ モチハミコウミ
アマテルカミが妃にすると、モチコ姫は皇子のホヒを産み
28-286 スケトナル ハヤハヒメウミ
スケ妃となり、ハヤコ姫は三姫を産み
28-287 ウチツホネ ウチセオリツガ
ウチ局になりました。ウチ局のセオリツ姫が
28-288 ミキサキニ ナルオモチコガ
御后になったので、モチコ姫が
28-289 コロサント ネタメハハヤハ
妬み、殺そうとしました。ハヤコ姫は
28-290 キミオシヰ オトキミコエド
君の位を狙うようにソサノヲ尊をそそのかしましたが、
28-291 アラハレテ トモニサスラフ
露見して、二人ともサスラの身になりました。
28-292 アカツチガ メオオトキミニ
アカツチ命が娘をソサノヲ尊と
チナムオバ ハヤガオロチニ
結婚させようとしたけれど、ハヤコ姫の悪だくみで
【ハヤガオロチニ カミコロス】 ハヤコ姫がアカツチの娘、ハヤスウ姫を殺したという叙述は見当たらない。7綾本文102でモチコ姫とハヤコ姫はアカツチのもとに預けられるが、流離いに出て「オロチ」になり、事件を起こすことになる。また、25綾本文039では、ニニキネがはげ山の話を聞いた時、アカツチの娘が「オロチ」に殺されたという話がある。さらに、39綾本文347でソサノヲがハヤスウ姫を祭った前例があると書かれている。ハヤスウ姫はハヤコもしくはその一味に殺されたようである。
28-294 カミコロス オトアシナヅガ
殺されてしまいました。ソサノヲ尊が、アカツチ命の弟のアシナヅ命の
28-295 メオコヱハ ナナヒメマデハ
娘と結婚したいと言うと、ハヤコ姫は八人の娘の内七人までも
28-296 カミクラフ トキニソサノヲ
殺してしまいました。そこでソサノヲ尊は
コレオキリ ミオヤスカタト
ハヤコ姫を成敗して、その身をヤスカタ神として
【ミオヤスカタト マツルユエ】 39綾本文347にソサノヲがハヤコ姫をヤスカタ神として祭ったことが書かれている。母鳥がウトウと鳴くと隠れている子鳥がヤスカタと応え、子鳥をとらえて殺すと親鳥は「ウトウ、ウトウ」と叫んで血の涙を流すという「善知鳥安方」にまつわる伝説があるが、この話が元か。
マツルユエ マタヤマスミノ
祭ったので、今度はハヤコ姫に憑いていた大蛇はヤマスミ命の
【ヤマスミノ メトウマレ】 24綾本文210以降に書かれているイワナガ姫。
28-299 メトウマレ イモトオネタム
娘のイワナガ姫に憑いて生まれ、姫は妹を妬む
ツミノトリ マタモチオロチ
罪深い鳥となってしまいました。またモチコ姫の怨念はオロチとなって
【ツミノトリ】 イワナガ姫の母親はウトウの一人、エツノシマ姫タキコ。
28-301 セオリツオ カマンカマント
セオリツ姫を殺す機会を狙い
モヰソヨホ ヱゾシラタツノ
長い間エゾシラタツの
【ヱゾシラタツ】 場所不明。「ヱゾ」と付くので東北地方のどこかであろう。
ダケニマツ イマカミトナル
山奥で待っていました。やっと今神上がることができるモチコ姫を
【イマカミトナル ムナシサヨ】 シマツウシはモチコ姫がすでに戸隠で亡くなっていることを知っていたから、躊躇なく戸隠へ行ったのだろう。怨念が残って、天界に還ることができなかったモチコ姫をシマツウシは哀れに思い、神上がらせようと思ったのだろうか。