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31-101 ワカミヤニ トエドコタエズ
若宮に相談しても、若宮は答えようがなかった。
31-102 モニイリテ モロハニマカス
喪の期間に入って、左右の臣に任した
ミオクリモ コハミテノバス
葬送の儀も、タギシ皇子は
【ミオクリ】 「ミ」(敬意を表す接頭語)が付くので、本文098の「オクリハカレバ」の「オクリ」(引き継ぎ)と違い、御送り、すなわち葬送の儀とした。
31-104 タギシミコ フタオトオタツ
やろうとしないで先送りにした。タギシ皇子は二人の弟を殺そうとして
31-105 ウネビネノ サユノハナミト
畝傍山の麓のサユ川で花見の
31-106 ミアエシテ ムロヤニメセバ
宴を開くと言って室屋に皇子たちを呼んだ。
31-107 イススヒメ ウタノナオシオ
企てを悟ったイスス姫が、歌を直して
31-108 コハシムオ ワカミヤフダオ
欲しいと頼んだので、若宮が歌札を
トリミレバ イイロヨムウタ
取って見ると、それは母からの異変を伝える歌であった。
【イイロヨムウタ】 「イ」は9綾本文082に「アイエルコトハ」、21綾本文142に「ヨキイオウケテ」とある「イ」と同意で、「アイエル」はアマテルカミの心を得る(許される)、また「ヨキイ」は「良い心」と訳した。このことから「イ」は「心」。また「イロ」は「色」と読み、様子を表すこととした。「心の様子」、それは母親のタタライソスズ姫が二人の皇子の危機を察して心配していること。「サユカワニ」からの歌は明らかに危機を心配していることを伝えている。ちなみに和仁估は「気色」、多くの研究者は「生母」と訳している。「イイロ歌」という訳もある。みなさんはどう訳されるだろうか。
31-110 サユガワユ クモタチワタリ
「サユ川に暗雲が立ち込め、(タギシ皇子が謀を企んでいます)
31-111 ウネビヤマ コノハサヤギヌ
畝傍山の木の葉がざわめいている。(畝傍山に不穏な気配がします)
31-112 カゼフカントス      
風が吹こうとしている。(タギシ皇子が命を狙っています)」
31-113 ウネビヤマ ヒルハクモトヰ
「畝傍山は、昼は雲が覆っているが(皇子は、昼は素知らぬ顔をしていますが)
31-114 ユフサレバ カゼフカントゾ
夕方になると風が吹いてきて(暗くなってから、そなた達の命を狙います。)
31-115 コノハサヤギル      
木の葉がざわめく。(とても危険で、心が騒ぎます)」
31-116 ワカミヤハ コノフタウタオ
若宮は、この二つの歌の真意を
31-117 カンガエテ サユニソコナフ
読み取って、サユ川で自分を殺そうとする
31-118 コトオシル カンヤヰミコニ
タギシ皇子の陰謀に気付いた。そこでカンヤヰ皇子に
31-119 モノガタリ ムカシキサキオ
事の次第を話した。「兄タギシ皇子は昔、后(義母ユリ姫)に
31-120 オカセシモ ヲヤコノナサケ
横恋慕したけれど、親子の情で
31-121 ウチニスム イマノマツリノ
内々に済ませてもらった。今度は政を
31-122 ワカママモ トミニサヅケテ
勝手に行っている。我の臣に任せて
ノクベキオ マタイラフコト
退くべきなのに、また手を出すとは
【イラフ】 「もてあそぶ、いじくる、さわる」という意より、「手を出す」とした。
31-124 イカンゾヤ アニガコバミテ
許せない。兄が拒むので
31-125 オクリセズ ワレラマネクモ
政の引き継ぎも行えない。我らを花見に招いたのも
31-126 イツワリゾ コレハカラント
陰謀だった」そこでタギシミミに計略を仕掛けようと
31-127 ワカヒコニ ユミツクラセテ
ワカヒコに弓を作らせ、
マナウラニ マカコノヤシリ
マナウラにマカコ矢の鏃を
【マカコノヤシリ】 「マカコ」は広辞苑に「マカコヤ」として、万葉集を用例にして、「真鹿児矢。古代、シカやイノシシなどの大きな獣を射るのに用いた矢という。」としている。
31-129 キタワセテ カンヤヰミコニ
作らせた。カンヤイ皇子に
31-130 ユキオハセ ヌナカワミコト
ユキ(矢筒)を背負わせ、カヌナカワ皇子と
31-131 ヱトイタル カタオカムロノ
兄弟でカタオカにある室の
31-132 タキシミコ オリニヒルネノ
タギシ皇子の所に行った。タギシ皇子はちょうど昼寝で
ユカニフス スメミコヤヰニ
床に寝ていた。カヌナカワ皇子がカンヤイ皇子に
【スメミコ】 君から世継ぎを指名された皇子。適切な訳語がないのでカヌナカワ皇子とする。
31-134 ノタマフハ ヱトノタガイニ
「兄弟どうしの
31-135 キシロフハ アヅクヒトナシ
争いは、我らの他に任せる人はいない。
31-136 ワレイラハ ナンヂヰヨトテ
我が先に入るから、兄上は弓を射てください」と言った。
31-137 ムロノトオ ツキアケイレバ
室の戸を突き開けて入ると
31-138 アニイカリ ユキオヒイルト
タギシ皇子は怒り、カンヤイ皇子がユキを背負って入ると
31-139 キラントス ヤヰミコテアシ
斬りかかってきた。カンヤイ皇子の手足が
31-140 ワナナケバ スメミコユミヤ
震えてしまったので、カヌナカワ皇子は弓矢を
31-141 ヒキトリテ ヒトヤオムネニ
カンヤイ皇子から取って、一矢をタギシ皇子の胸に
31-142 フタヤセニ アテテコロシツ
次の矢を背に射て殺した。
オモムロオ ココニオサメテ
遺骸をこの地に葬って
【ココニオサメテ ミコノカミ】 「ココ」とはどこか。奈良県磯城郡田原本町大字多に多坐弥志理都比古神社(多神社)があり、その境外摂社である「皇子神命神社」と思われる。多神社の祭神はカンヤヰミミとされているとすると、「皇子神命神社」の祭神は本文に書かれているようにタギシミミと考えられる。「多神宮注進状」では「(皇子神命神社は)祭神を瓊々杵命の別称とする」とありますが、多神社参詣の栞には、「皇子神命社の祭神は皇孫・ニニギ尊とするもののその御祭神は詳らかならず、多神社の御祭神カムヤイミミ命の皇子神とみるのが妥当であろう」(抜粋)というように書かれているそうである。
31-144 ミコノカミ カンヤヰハヂテ
「皇子の神」とした。カンヤイ皇子は勇気のなさを恥じて
ウエナヒヌ トイチニスミテ
カヌナカワ皇子に詫びた。カンヤイ皇子は十市に住んで
【ウエナヒヌ】 宣(ウベ)なう。承諾する、謝罪する、詫びる、服従する等の意。
【トイチ】 奈良県橿原市に十市町がある。
31-146 イホノトミ ミシリツヒコト
イホの臣、ミシリツヒコと
31-147 ナオカエテ ツネノオコナヒ
名前を変えて、日々
31-148 カミノミチ アニガマツリモ
神に仕え、兄タギシ皇子の祭りも
31-149 ネンコロニコソ      
懇ろに行った。
31-150 ニイミヤコ カダキニタテテ
カヌナカワ皇子は新しい都を葛城に築いて
31-151 ミヤウツシ ココニムカエル
都を遷した。そこで迎えた
31-152 トキアスス モモミソヨトシ
アスス百三十四年